FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)グループリーグ第1節で、日本代表はオランダ代表相手に2度追いつき、グループステージ突破へ大きな勝ち点1を獲得した。しかし、この引き分けから本当に考えるべきことは別にある。日本が得意とする「耐えて、後半に勝負をかける」戦い方は、対戦を重ねるごとに相手から分析されていく。その時、日本は自らの力で流れを引き寄せることができるのか。オランダ戦のプレーを振り返りながら、日本代表がさらに上へ進むための鍵を考えたい。(文:宮下白斗)[2/2ページ]
日本がボールを自陣から持ち運ぶ手段は…
元を辿ると、このシーンの始まりは日本のゴールキックだ。
久保は低い位置に降りてフレンキー・デヨングから離れ、鈴木からパスを受ける。そしてターンして前を向き、後方から飛び出した鎌田大地へスルーパス。このパスはライアン・フラーフェンベルフに対応されるが、日本は止まらずに上田、前田がプレスをかけ、バックパスを受けたバルト・フェルブルッフェンはタッチラインにボールを蹴り出さざるを得ない。
敵陣深くでのスローインを得た日本はオランダを押し込むが、ここでも久保が登場する。右から中央に流れて相手の間でパスを受け、左に張る中村に預けてチャンスを演出。さらに二次攻撃では左ポケットへ抜け出して相手を押し下げ、手前の中村に再びパス。中村がデンゼル・ドゥンフリースの股を抜くシュートを沈めた。
久保は三度に渡りプレーに関与してボールを自陣からゴール前まで運び出すことを助けた。そのうちの一度目の関与をきっかけに日本はプレスをかけてボールを捨てさせ、オランダを攻め立てる流れを自分たちで生み出したのだ。
この一連で久保がしたようなプレーが増えると、耐える展開から攻める展開を生むことができ、後半のギアチェンジによる強烈なインパクトがなくともチャンスの数は多くなる。そのための解決策として、自陣からボールを運び出すための方法の一つを以下に提示する。
従来の「3-4-2-1」ではなく、2トップとトップ下で構成する「3-4-1-2」だ。仮にオランダ戦の先発メンバーで話をするならば、前田と上田の2トップ、久保がトップ下の役となる。
2トップは前線で少し広がり、足元よりもサイドのスペースに流れてロングボールを引き出す。久保は真ん中にいるためどちらのサイドにボールが行ってもセカンドボールを拾いに行くことができ、久保の後ろからはボランチも加わる。厚みが生まれた中盤でボールを回収し、久保を起点としてプレーを展開できる機会を増やす狙いだ。
オランダ戦で採用された上田・前田・久保の全員が前線に張る形では久保と鎌田、佐野海舟が近い距離でプレーしづらい上、鈴木からの直線的な長いパスに相手CBフィルジル・ファン・ダイクとヤン・ポール・ファン・ヘッケは正面で対応できていた。
久保のような、狭いスペースで前を向いて相手を交わし、チャンスメイクできる攻撃的MFの存在は自陣からボールを前進させるために欠かせない。
その選手が中盤でプレーに関与しやすくなるようにトップの選手との位置関係や長いボールを送り込むエリアを調整することで、日本が敵陣へ相手を押し返し、それをきっかけとしたハイプレスやマイボールのリスタートによって主導的に流れを引き寄せやすくなる。
最後に、久保が負傷交代したことも踏まえ、ここで述べたトップ下的な役割を担うことのできる選手が久保以外にいるのかについて、少し意見を述べたい。何人か候補にあがる選手はいると思うが、推したいのは田中碧だ。
田中碧を推す理由
一つ目の理由は、高い技術と戦術理解を持って組み立てに関与し、ゴール前でフィニッシュワークに関わり、必要な場所では力強くバトルできること。
代表での経験も豊富で、(負傷により久保不在となった場合はなおさら)彼ならトップ下のような役割で試合の流れを引き寄せられるのではないだろうか。
オランダ戦では3-1-4-2への変更後の最後の交代カードは塩貝であったが、2トップへのクロスを警戒しているディフェンスラインの手前(ライン間)で力を発揮できる田中のシャドー起用も魅力的だったと思う。
そして、これは個人的な感覚になるが、大一番でヒーローになり得る存在であると感じる。25/26シーズンのプレミアリーグではリバプールとチェルシーから得点を奪い、カタール大会のスペイン戦で逆転ゴールをあげたのも田中だ。
もちろんボランチのポジションからの攻撃参加も期待したいが、拮抗した試合では先発、途中交代どちらにおいても佐野・鎌田のボランチコンビは動かしづらいかもしれない。その点一列前は選手の個性を変えやすいし、よりゴールに近い場所でプレーできるため、田中の嗅覚がより発揮されやすいとも考えられる。
田中のシャドー・トップ下起用は恐らく試されたことがないが、森保監督はこれまでも私たちを驚かせる采配をして日本を勝利に導いてきた。
普段のポジションより一列前で起用された田中の活躍が、日本サッカーを一つ上のステージへ押し上げるかもしれない。
(文:宮下白斗)
【著者プロフィール:宮下 白斗】
2006年4月26日、大阪府生まれ。13歳から試合分析ブログを書き始め、高校入学と同時にスクールコーチとして福山シティFCに加入。その後2年間トップチームコーチを担当した。高校卒業後ウェールズのサウスウェールズ大学のフットボールコーチング学部に入学し、現在は現地のアカデミーで分析官兼コーチをしている。
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