
ブラジル代表 マテウス・クーニャ【写真:Getty Images】
ブラジル代表は長年、絶対的な9番の不在を課題としてきた。今大会初戦ではイゴール・チアゴが不発に終わったが、マテウス・クーニャの起用によって前線の流れは一変。2試合連続ゴールで評価を高めたアタッカーは、日本代表にとって大きな脅威となるのか。(文・内藤秀明)[1/2ページ]
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“そこそこ”の活躍をみせたブラジルの9番たち

ルイス・ファビアーノ&リシャルリソン【写真:Getty Images】
ブラジル代表のストライカーは、単なる一ポジションではない。
サッカー王国の最前線に立ち、得点という最も分かりやすい結果で、セレソンの攻撃を完成させる役割を担うのだから、プレッシャーは半端ない。
決定機を外せば戦犯、決めれば英雄になるハイリスク・ハイリターンのポジションだ。
90年代前半にはロマーリオ、90年代後半から00年代前半にはロナウドがいたように、かつてはワールドカップの舞台で絶対的な存在感を放つストライカーがいた。
特にロナウドは1998年大会で4得点、2002年大会で8得点を挙げ、後者ではブラジルを世界王者に導いている。
しかし、近年のブラジル代表では、その系譜を明確に受け継ぐ9番がなかなか現れていない。
まずは、過去のセレソンの背番号9を振り返ってみよう。
2010年の南アフリカ大会でブラジルの9番を背負ったのは、2000年代後半にセビージャで存在感を発揮したルイス・ファビアーノだった。
ルイス・ファビアーノは、2009年コンフェデレーションズカップで5試合5得点を決めていることもあり、大会前、ブラジルメディア『テラ』は、ルイス・ファビアーノを「セレソンの得点における大きな希望」と位置づけていた。
その期待に応えて、グループステージ第2戦のコートジボワール戦で2得点を決めて、決勝トーナメント1回戦のチリ戦でもゴールを決めるなど一定の結果を残した。
しかし、この大会でブラジル代表は準々決勝でオランダ代表に1-2で敗退。この試合で無得点だったルイス・ファビアーノは、ブラジル紙『フォーリャ・ジ・サンパウロ』から「目立たないパフォーマンス」とバッサリ切られている。
5試合出場3得点は悪い結果ではないものの、圧倒的な存在ではなかった。
2022年カタール大会のリシャルリソンは、初戦のセルビア戦でいきなり2ゴールを決めるなど鮮烈なスタートを切った。
特に、この試合の2点目では、バイシクルシュートで得点を記録しており、このゴールはFIFAの人気投票で2022年大会の最優秀ゴールに選ばれた。
しかし、その勢いは続かず。準々決勝でクロアチアを相手にPK戦にまでもつれた末にブラジルは敗れ、リシャルリソン自身も4試合に出場して3得点で終わっている。
リシャルリソンも、一定の結果を残したと言えるが、圧倒的ではなかったのだ。
明確に失敗の烙印を押された選手たち

フレッジ&ガブリエウ・ジェズス【写真:Getty Images】
2006年ドイツ大会のブラジル代表は、ロナウド、アドリアーノ、ロナウジーニョ、カカという豪華攻撃陣が名を連ねたが、チームは準々決勝でフランス代表に0-1で敗れた。
ロナウドは5試合3得点、アドリアーノは4試合2得点、カカは4試合1得点を記録。数字だけを見れば完全な不発ではないが、期待値を考えれば不十分な結果で終わっている。
また、ストライカーではないが、ロナウジーニョにいたっては5試合無得点と最悪のパフォーマンスだった。
他にも、2014年ブラジル大会のフレッジは、自国開催の重圧の中で6試合1得点に終わった。
唯一の得点はグループステージ第3戦のカメルーン戦で、ブラジルはその後、準決勝でドイツ代表に1-7で敗れる歴史的惨敗を喫している。
この試合でフレッジは先発したが無得点に終わっている。70分過ぎにウィリアンと交代する際には、ホームの観客から強烈なブーイングを浴びた。本人もこの試合を「私たちにとって人生最悪の試合」と認めている。
自国開催の9番として期待された得点力を示せず、失敗の象徴になってしまった。
2018年ロシア大会におけるガブリエウ・ジェズスも、期待値との落差が大きかった。
マンチェスター・シティでプレミアリーグ制覇を経験し、ロシアワールドカップ前にはチッチ体制の最多得点者として大会に臨んでいた。
しかし、本大会では、全5試合に先発しながら無得点。最終的にセレソンは準々決勝でベルギー代表に1-2で敗れ、ジェズスもこの試合に先発したがゴールを奪えず、58分にドウグラス・コスタと交代した。ジェズス本人も後に「責任は重い」と悔しげに語っている。
イゴール・チアゴの潜在能力は明らかだが…

ブラジル代表FWイゴール・チアゴ【写真:Getty Images】
そんな中、今大会の初戦モロッコ代表戦では、ブレントフォード所属の背番号25番イゴール・チアゴが先発した。
彼のクラブレベルでの実績を見れば、潜在能力は明らかだ。
ブレントフォードで、2025/26シーズンにプレミアリーグで22得点を記録。プレミアリーグで1シーズンに最も多く得点したブラジル人選手となり、ブレントフォードサポーター選出の年間最優秀選手と選手選出の年間最優秀選手を同時に受賞した。
少なくともプレミアリーグの厳しい環境で、ゴールを奪い続けた本物のストライカーだ。
ただし、イゴール・チアゴのプレミアリーグでの活躍は昨季の1年のみである。
プレミア初年度の一昨季は怪我で棒に振ったという事情はありつつも、トップレベルでの継続性がまだない点は事実だ。
また昨季の22ゴールのうち、8ゴールがPKだったことも、懐疑的な見方を加速させている。
加えてブレントフォードの9番とブラジル代表のそれは、同じ番号でもプレッシャーがまるで違う。
過去に9番を背負ったリシャルリソンも「このシャツはとても重い」と実際に語っている。
W杯前の段階のイゴール・チアゴは、ブラジル代表で親善試合の4試合しか出場していない。その4試合で2点決めているとはいえ、セレソンとして大舞台は未経験だ。
そんな中で迎えた2026年北中米W杯初戦、モロッコと1-1で引き分けた一戦でイゴール・チアゴはプレー面で精彩を欠いた。存在感が希薄で、決定機も外している。
その結果、ブラジルメディア『UOL』は、「イゴール・チアゴにはブラジル代表の先発を務めるだけの技術レベルがない」とまで書いているほどだ。
プレミアリーグの舞台で奮闘する昨季1年間のイゴール・チアゴを見守った筆者としては、彼のニア上への鋭いシュートや、ポストプレーのクオリティはトップレベルの印象がある。
とはいえ、ブラジル人にとって9番のポジションには、特別な思い入れがあることで、つい強めの語気になってしまうのかもしれない。