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「前に倒れるフットボール」の正体。川井健太監督が北海道コンサドーレ札幌に植え付ける “我々のフットボール”とは【独占インタビュー(2)】

シリーズ:コラム text by 黒川広人 photo by Getty Images,hiroto kurokawa

北海道コンサドーレ札幌 川井健太監督 単独インタビューにて

北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督【写真:黒川広人】



 「前に倒れるフットボール」。川井健太監督が北海道コンサドーレ札幌で目指す「我々のフットボール」は、この一言に集約される。ゴールへ向かう姿勢を貫くこと。身体と頭を動かし続けること。そして、コーチ陣と役割を分担しながら、チーム全体の基準を積み上げていくこと。そこには、北海道という土地だからこそ描けるフットボールへの確かな手応えがあった。※全4回。(取材・文:黒川広人) 

「一番良い言葉、一番良いモチベーションで試合に入らなければいけない」

北海道コンサドーレ札幌 川井健太監督 4月29日の藤枝MYFC戦にて

川井健太監督は必要なタイミングで選手たちへ言葉を送る【写真:Getty Images】


 川井健太監督が北海道コンサドーレ札幌の指揮官に就任し、真っ先に取り組んだのは、身体と頭を動かし続けること。そして、正しいポジショニングを取ることだった。

「札幌はうまい選手はそろっているんですけど、その前の段階として、ポジショニングを取ること、判断することを僕は重要視しています。そこがないと、やっぱり難しい。だから、良いプレーの定義を合わせていくことが最初は大事でした」

 その考えをチームに浸透させる上で欠かせなかったのが、コーチ陣の存在だ。

 実際に菊地直哉コーチや小川佳純コーチなど、これまでともに仕事をしてきた信頼できるスタッフを招聘。現在のトレーニングでは、各コーチそれぞれが明確な役割を担いながら、チーム全体の基準を引き上げる声がグラウンドの至るところから飛ぶ。

 一方で、川井監督自身はピッチ全体を見渡せる位置に立ち、必要なタイミングで選手たちへ言葉を送る。いわば「分業制」だ。
 
 では、このスタイルはいつから始まったのだろうか。

「(サガン)鳥栖の1年目からですね。愛媛(FC)で監督をしていたときは、ほぼ全部を自分でやっていました。でも、その結果、試合のときに一番疲れているんですよ。一番良い言葉、一番良いモチベーションで試合に入らなければいけないのに、『やっと試合が来た』みたいになってしまって。それはどうなんだろうと感じました。

 どの会社でもそうだと思うんです。社長が全部やることはないですよね。フットボールも同じなんじゃないかという仮説が出たんです。僕はどちらかというと攻撃の方が得意です。守備が嫌いなわけじゃないですけど、自分の中でプライオリティが少し下がる部分に対して強く言い続けるのは難しいなと思うこともあって。そういう考えもあって分担制を始めました」

 現在もその形を継続しているということは、それだけの手応えがあるということだろう。

「我々のフットボール」の正体とは?

5月16日 福島ユナイテッドFC戦 北海道コンサドーレ札幌 イレブンショット

北海道コンサドーレ札幌は川井健太監督のもと、攻撃的なスタイルを再構築している【写真:Getty Images】


「メリットはありましたね。日本代表も今、そういう形だと聞きますし、ヨーロッパでもおそらくそれに近い形でやっています。今のこの形が僕らには合っている。選手に対して効果的なんです。効率的だからではなく、効果的だから続けています」

 川井監督は会見などでたびたび「我々のフットボール」という言葉を口にする。

 では、「我々のフットボール」とは何なのか。

「前に倒れることです」

 その真意を、こう語る。

「まずは攻撃も守備も前に行きたい。ボールも前進させたい。なぜなら、ゴールが前にあるからです。そこに対してベクトルを持ってやりたい。でも、負けるときもあるんです。それでも前に倒れる。危ないからと後ろを向いて逃げて、やられるんじゃなくて、前のめりに僕らは倒れていきたい。

 噛み砕いていくと、やっぱりゴールですね。そこに執着を持ってやっていきたい。勝ったときと、ゴールしたとき。サポーターの方々が熱狂的になるのは、おそらくその二つです。その回数をできるだけ増やしたい。だから、僕らはボールをしっかり握って、相手をコントロールしながら試合を進めていきたい。そういう大前提があります」

 ボールを保持することが目的ではない。ゴールへ向かうために前へ進み続ける。そして、スタジアムに歓喜の瞬間を一つでも多く生み出すこと。そのためのポゼッションであり、そのための「前に倒れるフットボール」なのだ。

 さらに川井監督は、そうしたスタイルを築く土壌が北海道にはあると感じているという。

「いろいろなものを受け入れながら構築していく。そういう文化なのかな」

5月23日、百年構想リーグ地域リーグラウンドでジュビロ磐田との試合を終え、ホームのサポーターに挨拶する北海道コンサドーレ札幌

「北海道には独自の文化がある」と語る川井健太監督。ホームのサポーターが作る雰囲気は圧巻だ【写真:Getty Images】


「独自の文化があるなというのは非常に思っています。歴史的な背景でいうと、開拓されて150年ほど。いろいろな文化を取り入れて、皆さんが北海道に来て開拓していった。それと一緒かもしれないですね。

『これ』という一つの形に固めるんじゃなくて、いろいろなものを受け入れながら構築していく。でも、オリジナリティーは失わない。そういう文化なのかなと思っています。非常に好感を持てますし、それがフットボールにもつながっていくと思っています」

 異なる文化を受け入れながら、新しい価値を生み出していく――。それは第1編で語った「人それぞれ」という価値観や、「グレーを遊べる選手」が好きだという考え方ともつながっている。

 北海道という土地と、川井監督のフットボール観。その親和性の高さこそが就任からわずか数カ月でチームに変化をもたらしている理由なのかもしれない。

 新シーズンのキックオフイベントで、川井監督はファン・サポーターへ向けて「我々、北海道コンサドーレ札幌とともに歩んでもらえたらと思います」と呼びかけた。

 その一言には、選手だけでなく、クラブに関わるすべての人と同じ方向を向きながら歩んでいきたいという指揮官の思いが込められているように感じた。

 第3編では、ファン・サポーターへの熱い思いについて話を聞いた。

(取材・文:黒川広人)

【著者プロフィール:黒川広人】
北海道出身。大学卒業後、フジテレビで番組制作を担当。2018年よりDAZNにてJリーグ関連の番組制作に携わる。2022年からは株式会社dscに所属し、Jリーグ、Jクラブ、WEリーグをはじめとする各種スポーツ団体の映像ディレクション業務を担当。また、地元・北海道を中心に学生年代の取材活動も精力的に行う。

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【了】

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