
北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督【写真:黒川広人】
「このバスにはサポーターも乗っている」。川井健太監督は、北海道コンサドーレ札幌に関わるすべての人を、同じ目的地を目指す”仲間”だと考えている。だからこそ、苦しいときこそ自ら前に立ち、言葉を届ける。開幕直後の苦境でゴール裏へ歩み寄った理由、そして”最高のパートナー”とともに描く未来。その思いを、率直な言葉で語ってくれた。※全4回。(取材・文:黒川広人)
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「俺たちは、この方々を喜ばせるために戦うんだ」

真っ赤に染まったゴール裏のファン・サポーターを背に記念撮影する北海道コンサドーレ札幌の選手たち【写真:Getty Images】
川井健太監督が就任後、最初に行ったチームミーティングで選手たちに見せたものがある。
それは、北海道コンサドーレ札幌を支えるファン・サポーターの姿だった。
「俺たちは、この方々を喜ばせるために戦うんだ」
川井監督は、そう選手たちへ訴えかけた。その場限りの言葉ではない。日々の取材や会見を重ねる中でも、その言葉の端々から、常にファン・サポーターと同じ目線に立とうとする姿勢がうかがえる。そのきっかけを尋ねると、指揮官は静かに語り始めた。
「元々その考えはあったと思います。そして、その考えがより強まってきたと思います。いろいろ考えるんですけど、僕らは何をやらなければいけないのかと思うと、この北海道コンサドーレ札幌に関わる人たちを幸せにしなければいけない。
コンサドーレに関わる皆さんの幸せを何かと考えると、やっぱり勝つことです。勝って不幸せになる人は、まだ見たことがないので。それが第一。その後に出てくるのが、どう戦ったかという中身です。その戦い方が次につながるかです」
もっとも、シーズンが順風満帆に進むことの方が珍しい。昇格を目指す今季のJ2には、J1経験を持つクラブが12クラブもひしめき合う。開幕前には、どのクラブのファン・サポーターも「今年こそ」と期待を膨らませる。
しかし、J1への切符はわずか3枚しかない。だからこそ、目先の結果に一喜一憂するのではなく、苦しい時期をどう乗り越えるかが重要になる。
ファン・サポーターを大切にする川井健太監督がとったある象徴的なシーン

北海道コンサドーレ札幌は明治安田J2・J3百年構想リーグ第5節で松本山雅FCに敗れ、最下位に【写真:Getty Images】
「サポーターの方々が負けて怒る気持ちは理解できます。チケット代を払って来てくださっているわけですから。でも、僕らはそういうことも起こり得るという前提でバスを走らせています。
その上で、『どういう試合をしたのか』にフォーカスして、ファン・サポーターと目線を合わせないといけない。僕はファン・サポーターと喜怒哀楽を共有しながら、一緒に歩んでほしいと思っています。
選手も人間です。次につながらない応援、ただの文句になってしまうと、ストレス発散で終わってしまいます。僕らもファン・サポーターを大切にしていますし、ファン・サポーターにも北海道コンサドーレ札幌を大切にしてほしい。そのバランスを本当に究極まで取り合わなければいけないと思っています」
象徴的なシーンがあった。
明治安田J2・J3 百年構想リーグ第5節・松本山雅FC戦。札幌は0-3で敗れ、開幕から5試合を終えた時点でまさかの最下位に沈んだ。試合後、ゴール裏へあいさつに向かった選手たちへ、サポーターからこんな激励の声が飛んだ。
「一つ変われば必ず変わる。みんなで変えていこう。大丈夫、俺らはついていく」
その言葉を受け、選手たちが口を開こうとした、その瞬間だった。川井監督は選手たちを制し、自らゴール裏の前へ歩み出る。そして、ファン・サポーターへ向け、自身の言葉で思いを伝えた。
「本当に申し訳ない。今、俺らは弱い。ただ、彼らも必死に変わろうとやっている。でも、結果は出ていない。ただ、強くするから。本当にみんなが応援に来てくれること、いろいろなことに感謝している。必ず返すから。絶対に俺はこのチームを変える。
それを応援したかったら応援してほしい。信じられなくなったときはブーイングしてくれ。これから彼らは変わるから。彼らを信じてほしい。俺を信用してほしい。必ず最高のパートナーになれる」
あのとき、川井監督は何を思っていたのか。
「このバスのハンドルを握っているのは僕で」

本サイトのインタビューに答える北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督【写真:黒川広人】
「今は良くないときで、時間は掛かると思っていました。でも、その舵取りをして、バスを走らせ、ハンドルを握っているのは僕です。『違う道を走った方がいいんじゃないか』という人もいるかもしれない。でも、僕はこの道を走っていけば、必ず目的地にたどり着けると思って握っています」と言い、こう続けた。
「あの場面では、選手が何かを発言しようとしていました。でも、このバスのハンドルを握っているのは僕で、選手はまだ乗っている側なんですよね。乗っている人に『この道は間違っているんじゃないの?』ということを弁明させるのは違う。だから、あのときは僕が話した方がいいと思いました。
僕はこの道が間違っていないと確信していますし、ここからもっとスピードを上げて、目的地に早く着けるようにしますよという感覚でした。あのときの声は、罵声という感じではなかったですけど、いろいろな声のベクトルを合わせることが大事だと思ったんです」
当時の行動は自身にとっても予想外だったという。
「人生で初めて、ゴール裏に行ってしまいました。自分でもちょっとびっくりしましたね。もう、すーっと体が動いて、そのまま、みなさんの前に立っていました」
あの行動を突き動かした理由も、ファン・サポーターの力を川井監督自身が欲しているからに他ならないだろう。
「僕はサポーターもこのバスの中に乗っていると思っています。サポーターも一緒に走っているんです。もちろん、運転手に怒ることはありますよ。急ブレーキを踏まれたら怒りますよね(笑)。でも、このバスに乗ってくれた以上は僕らが必ず目的地まで連れていきます。
だから、1回、2回急ブレーキを踏んだからといって降りるのは、まだ早いんじゃないかと思っています。それこそグレーゾーンですよね」
ファン・サポーターを含めた札幌に関わるすべての人を「同じバスに乗る一員」と表現した川井監督。
指揮官が描く未来を実現させるのは、選手だけではない。ファン・サポーターもまた、その旅路をともに歩む存在だ。
第4編では、J1昇格、そしてその先に見据える壮大な未来について語ってもらった。
(取材・文:黒川広人)
【著者プロフィール:黒川広人】
北海道出身。大学卒業後、フジテレビで番組制作を担当。2018年よりDAZNにてJリーグ関連の番組制作に携わる。2022年からは株式会社dscに所属し、Jリーグ、Jクラブ、WEリーグをはじめとする各種スポーツ団体の映像ディレクション業務を担当。また、地元・北海道を中心に学生年代の取材活動も精力的に行う。
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