ファジアーノ岡山の大森博【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山の大森博にとって、8月15日のV・ファーレン長崎戦は、J1で初めて勝利を味わった一戦だった。試合前日、木山隆之監督から「責任感を持って、自分が引っ張るぐらいでやれ」と言葉をかけられた23歳は、ホーム開幕戦で最後までゴールを守り抜いた。J3での武者修行を重ね、J2での出場経験がないままJ1へたどり着いた大森。指揮官の言葉を力に変えた23歳は、今、どこを見据えているのか。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
【2026/27明治安田J1リーグ第2節】
2026年8月15日 ファジアーノ岡山 1-0 V・ファーレン長崎
(JFE晴れの国スタジアム)
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ホーム開幕戦前に木山隆之監督が守備陣に掛けていた言葉

V・ファーレン長崎とのホーム開幕戦に臨むファジアーノ岡山イレブン【写真:Getty Images】
タイムアップの笛が鳴ると、ファジアーノ岡山の大森博は大の字でピッチに倒れ込んだ。重力に逆らう力までも使い果たしたかのように、身体が芝生に覆い被さる。しかし、唯一、両手こぶしは力一杯に握りしめられていた──。
2026/27シーズンのホーム開幕戦となった第2節でV・ファーレン長崎と対戦。特別大会で2連敗を喫していた相手を1-0で撃破し、掴み取った今シーズン初勝利は、チームにとって非常に価値のあるものだった。
クラブ初の欧州キャンプを経て迎えた開幕節の第1節では、アウェイでセレッソ大阪に2-1と逆転負け。開始8分に先制する最高の入りができていただけに、前半24分までに相手のロングボールに屈して2失点を献上したのはもったいなかった。
岡山はJ1初挑戦となった2025シーズン、失点数をリーグで10番目に少ない「43」に抑え、第10節までに挙げた5勝はすべて完封勝利によるものだった。J1に居続けるためには、堅守を土台にすることが欠かせない。開幕戦はその前提に反する結果で、チーム内からは「安すぎた」という表現が出るほど悔やまれるものだった。
今節はチケットが完売となり、JFE晴れの国スタジアムには14,223人が駆けつけた。チームバスの到着からサポーターの大声援と手拍子が始まり、ボルテージはマックスに。気合いと熱気で満ちあふれた一戦に、木山隆之監督は守備陣に発破をかけて臨んだ。
「前節は本当に(選手たちが)自分たちでも不甲斐ないと思っていたと思うので、特に2失点は。ミーティングで『これが僕たちのやりたいことじゃないし、やるべきプレーじゃないよ。だからすぐ修正しないといけない』ということが彼らに伝わっていたと思います」
結果的に90分で長崎のシュートをわずか3本に抑えるほどの堅牢な守備が、1-0での勝利の土台になった。指揮官はこのように称賛する。
木山隆之監督が大森博を個別で呼び出し…伝えられた“あること”とは

ファジアーノ岡山の木山隆之監督【写真:Getty Images】
「例えば、今日の相手はシステムは同じだけど違うタイプのチーム。そういう相手に対して、簡単に背後を取られたり、簡単に1対1で収められたりするような守備だとなかなか難しい。
今日はディフェンスラインは本当によく集中していたと思います。また、その(ディフェンスラインの)前でしっかりとバイタルエリアを消していたオベ(ルダン)も非常に素晴らしかった。(相手コートなどの)前での守備と、ゴール前で守る両方をそつなくやっていたんじゃないかなと思います」
背番号6にとっても、価値のある大きな勝利だった。試合前日の練習後、監督に個別で呼び出され、とあることを伝えられていたという。
「それ(前節の悔しさ)もありましたし、木山さんからは個人的に『責任感を持って、自分が引っ張るぐらいでやれ』という話をされていました。
今節はホーム開幕戦でもあったし、(監督から)そういう言葉をもらって、より自分の中で責任感と、『全部勝ってやろう』と気持ちが入っていた。自分のプレーはそんなに満足できる出来ではなかったけど、とりあえず勝てて良かったです」
無失点で勝利に貢献しても満足していないのは、自分の中での評価基準を高く設定していることに加え、前半にこの試合で最も大きなピンチを作られたシーンがあったからだろう。8分、マークを担当していた岩崎悠人にダイアゴナルランから抜け出され、入れ替わられてポスト直撃のシュートを許した。
しかし、ピンチらしいピンチはその1本のみ。試合が進むにつれて、元日本代表FWにアジャストしていく。「脅威だった」という岩崎のランニングへの対応は、「先に反応して裏のスペースを埋めてから、(ボールを)足元で受けさせるイメージ」で修正した。
後半は54分にルカオのゴールで先制すると、その後は長崎の反撃を受けた。前節に2ゴールを決めていたチアゴ・サンタナを起点に、両サイドから鋭いクロスが岡山のゴール前に入ってくる。かつてJ1得点王にも輝いた相手エースを、大森は立田悠悟と鈴木喜丈とともに監視しながら、粘り強く跳ね返し続ける。
後半アディショナルタイムの6分が掲示され、90+5分には鈴木が足の痙攣でピッチに座り込む。北中米ワールドカップ後に適用された新ルールにより、治療のためにはピッチ外へ出なければならず、岡山は10人で戦うことを余儀なくされる。
「ディフェンスとして、やっぱりどんな形でもいいから失点しない」

今季初勝利の喜びに浸るファジアーノ岡山の(写真左から)大森博、立田悠悟、鈴木喜丈【写真:Getty Images】
数的不利の90+6分、岡山の左サイドから山なりのクロスが入ってくる。ボールはGKを越えてファーサイドまで届き、長崎のFW洪怜鎭が頭で折り返し、MF松本天夢がオーバーヘッド気味でさらに中央に送ってきた。ボールの先には白いユニフォームを着た長崎の選手が待ち構えている。
しかし、大森が立ちはだかった。ボールの軌道が2度も変わるも、足をしっかりと運び、身体を投げ出して大きく弾き出した。
このクリアがなければ、ペナルティースポットからフリーで決定的なシュートを許していただろう。フィニッシャーになろうとしていたのは、キャリアの中でセットプレーなどから非凡な得点感覚を発揮してきた新井一耀。絶体絶命のピンチになりかけていたが、それを大森がしのいだ。
疲弊した中でのビッグプレーは、「ディフェンスとして、やっぱりどんな形でもいいから(ボールを)触って失点しない。そういう意識が形になって出た」という執念に似たものだった。
だが、それだけではない。難しいボールの軌道は冷静に予測できていた上で、クリアの実行には見えない力が欠かせなかった。
「今日はファン・サポーターの方々から本当にパワーをもらいましたし、走る原動力でもあったので本当にありがたかったです。最後(の守備のシーン)は、本当にホームの方々が足を動かしてくれましたし、しっかりと伸ばして触ることができてよかったです」
失点を免れたのではない。自らで、防いだ。試合終了後、仰向けになって勝利の余韻に浸る大森のもとへ、先輩の立田と鈴木がすぐに歩み寄り引っ張り上げる。その光景は、背番号6の奮闘を称えているようにも見えた。