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「何のために来たと思っているんですか」新加入・瀬古樹、浦和レッズで見せた“余裕”「川崎にいたときの瀬古とは違うな、と」【コラム】

text by 菊地正典 フリーライター photo by Getty Images

浦和レッズの瀬古樹
浦和レッズの瀬古樹【写真:Getty Images】



 浦和レッズが横浜F・マリノスを3-2で下し、開幕4試合目で今季リーグ初勝利を手にした。1-2の58分から途中出場し、逆転勝利の流れを引き寄せる一人となったのが、今夏加入した瀬古樹だ。川崎フロンターレからイングランドへ渡り、2年間の経験を経てJリーグに戻ってきた28歳。「川崎にいたときの瀬古とは違うな、と思っていただけたら」。その言葉通り、プレーから感じられるのは以前にも増した“余裕”だった。瀬古はイングランドで何を身につけ、それを浦和にどう還元しようとしているのか。(取材・文:菊地正典)

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【2026/27明治安田J1リーグ第4節】
8月29日 浦和レッズ 3-2 横浜F・マリノス
(埼玉スタジアム2002)

「何のために来たと思っているんですか」初勝利で見せた感情

浦和レッズ
浦和レッズは横浜F・マリノス戦で今季リーグ戦初白星をマークした【写真:Getty Images】



 浦和レッズがホームの埼玉スタジアムで横浜F・マリノスに3-2で逆転勝利し、今季リーグ初勝利を手にした瞬間の光景に、目を疑った。

 選手たちがそれぞれの行動で喜びを表現する中、ピッチに平伏し、両手でピッチを叩いている選手がいる。最も大きな感情表現をしていた選手の背中に目を凝らすと、12番だったのだ。

 瀬古樹が浦和に加入することが発表されたのは8月16日。その時点でJ1リーグは2試合を終えていた。チームにとっては横浜FM戦が4試合目、3連敗後の初勝利だったが、瀬古自身が浦和の選手として経験した試合は、1勝1敗の五分に過ぎない。

 加入後リーグ初勝利とはいえ、なぜ体全体で表現するほどにうれしかったのか。川崎フロンターレ時代はクールな印象が強かった瀬古に、その感想をそのままぶつけてみる。

 瀬古はフッと笑ったあと、こちらの目を見て答えた。

「そりゃそうですよ。何のために来たと思っているんですか」

 川崎フロンターレからEFLチャンピオンシップのストーク・シティに移籍し、イングランド2部で2年の経験を重ね瀬古が、帰国して初めて埼スタのピッチに立ったのは、チームが失点して1-2となった直後の58分だった。

 曺貴裁監督はビハインドを背負ったがために瀬古をピッチに投入したのではない。瀬古が交代の準備をしている最中にチームが失点したのだ。スコアや状況によって選手たちはプレーを変えるものだが、ボランチ、アンカーは特にその変化が大きくなる。

「これは自分に試練が回ってきたな……」

 瀬古はピッチサイドでそう思いながらも、とにかくチームを良い方向に向かわせることだけを考えた。

 その後、チームは同点に追いつくばかりか、逆転に成功する。明らかに試合の流れは変わった。

 CKからゴールを決めた根本健太、途中出場で決勝ゴールを決めた南野遥海が殊勲者であるのは間違いないが、瀬古も明らかに試合の流れを変えた一人だった。

 攻撃では相手に寄せられてもいなしながらボールを前進させる。守備では球際の強度を発揮してボールを奪う場面もあれば、ボールの出先を読んでインターセプトする場面もあった。

「川崎にいたときとは違う」イングランドで身につけた“余裕”

川崎フロンターレ時代の瀬古樹
「川崎フロンターレにいたときの瀬古とは違うな、と思っていただけたら」【写真:Getty Images】



 圧巻だったのは、75分から76分にかけて見せたプレーだ。相手が最終ラインからボールを前進させようとするなか、浮いた状態で周囲を確認すると、味方のマークを離れてフリーになろうとする選手に素早く寄せる。

 そしてバランスを崩した相手からボールを奪ってそのまま前進すると、フリーだった小森飛絢へパス。さらに小森からパスを受けたマテウス・サヴィオの動きや周囲の状況を確認すると、一度ゆるめたスピードを再び上げ、ゴール前に走り込んだ。

 結果としてサヴィオのシュートは決まらなかったが、瀬古がボール奪取からチャンスメークまでこなしたのだ。

 さらには、自らもゴール前に走り込んでボールをもらえなかったにもかかわらず、リターンパスをもらえず不満を示す小森に声をかける気配りも見せた。

 川崎フロンターレ時代から何でもできるタイプ、例えば多角形のレーダーチャートで能力を示すなら、どこか一つの要素が尖っているのではなく、正多角形に近くて面積が大きいタイプの選手だった。

 新加入会見では「できていなかったと思う部分が少しは改善されたり、逆にそこが伸びていたりする」ことを理由に「川崎フロンターレにいたときの瀬古とは違うな、と思っていただけたら」と話している。

 ただ、リーグではまだ2試合に途中出場したに過ぎないとはいえ、イングランドである要素が極端に伸びたというよりも、あらゆる要素が伸びてレーダーチャートがシンプルに大きくなった印象を受ける。

 特に感じるのは、“余裕”だ。攻守にわたり、あらゆる局面で焦ることなく、とにかく落ち着いてプレーしている。

「このチームに還元することが僕の仕事」瀬古樹が浦和に示す新たな基準

浦和レッズの瀬古樹
「勝てばこれだから」瀬古樹はそうチームメートに伝えた【写真:Getty Images】



「僕はイングランドでは相手との体格差があったので、圧迫感というか距離感の違いを感じていました。そこは技術というよりは感覚的な違いですかね」

 そうだとすれば極端な話、瀬古と同じ感覚を持つことができれば、チームメートたちも余裕を持ってプレーできるようになる。

 なかなか経験できることではないし、Jリーグでプレーしている以上、その感覚をつかむのは難しいが、瀬古はその基準を伝える役割も担う。

「体格差を埋められるわけではないし、僕が体格差を出せるわけでもない。口で伝えて分かるようになるわけでもないですよね。

 だから、一つひとつのプレーの速さ、判断もそうだけど、一歩目や予測の速さを示す部分、それから監督が志向するサッカーがベースとしてあって、それを体現するのが前提で、それに上乗せして何かを出す。そういうところをプレーで表現したいと思っています」

 2年間暮らしたイングランドを離れて帰国する決断をした理由は、一つではない。

 だが、例えば出場機会を得られないなど、ピッチ内に問題を抱えて帰国せざるをえなかったわけではない。

 それだけに、水色でも赤と白のストライプでもなく、真っ赤なユニフォームを着て勝利したいという渇望も、「すごく熱心に声をかけてくれた」クラブを自らの力で勝たせたいという思いも強い。

「川崎に加入したころはまだ24、25歳くらいで、上の人たちに食らいついていこうという時間でしたけど、いまは年齢を重ねて、イングランドで経験も積んで、サッカーはもちろん、それ以外のこともいろいろ学べました。それを体現するのが僕の仕事だし、このチームに還元することが僕の仕事です」

 横浜FM戦の1週間前、FC町田ゼルビアに1-3で敗れたあとは、肩を落とすチームメートに対し、例えブーイングを受けようとも、前に出てファン・サポーターに挨拶するよう促した。

 横浜FM戦の勝利のあとは、歓声を浴びながらスタジアムを一周する際、スタンドをじっと見つめると、並んで歩くチームメートに「勝てばこれだから」と伝え、笑った。

 繰り返しになるが、リーグでは2試合に途中出場し、計60分弱プレーしたに過ぎない。それでも、新たな指揮官を迎えて生まれ変わろうとする浦和は、ピッチ内外で大きな影響を及ぼしそうな貴重な戦力を得たと言える。

 そして、加入後初となるリーグでのホームゲームで勝利に貢献した瀬古もまた、自身の力を存分に発揮できる舞台を得たと感じていることだろう。

(取材・文:菊地正典)

【著者プロフィール:菊地正典】
福島県出身。埼玉大学卒業後、当時、日本最大級だったサッカーモバイルサイトの編集・ライターを経て、フリーランスに。主にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として活動し、横浜FC、浦和レッズ、ジェフユナイテッド市原・千葉、横浜F・マリノス、川崎フロンターレの担当記者を歴任。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』(スクワッド)、『トリコロール新時代』(スクワッド、三栄書房)がある。Xのユーザー名は@masanorikikuchi

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