
清水エスパルス 井上健太【写真:榊原拓海】
261日間の空白を、ただの“空白”にはしなかった。ケガに苦しみ、何度も離脱を繰り返しながらも、井上健太はチームのために戦い、自分自身とも向き合い続けた。そして、ようやく立った新たなホーム『IAIスタジアム日本平』のピッチ。待ち続けた場所で踏み出した一歩は、終わりではなく、ここからを示すものだった。(取材・文:榊原拓海)[1/2ページ]
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【2026/27明治安田J1リーグ第7節】
2026年9月12日 清水エスパルス 1-0 アビスパ福岡
(IAIスタジアム日本平)
IAIスタジアム日本平のピッチに立つまで

百年構想リーグ第11節・ヴィッセル神戸でプレーする清水エスパルスの井上健太【写真:Getty Images】
261日間。この数字は、井上健太の清水エスパルス加入が発表された2025年12月25日から、ホーム『IAIスタジアム日本平』で公式戦デビューを果たした2026/27明治安田J1リーグ第7節のアビスパ福岡戦までに要した日数だ。
横浜F・マリノスからの完全移籍加入後、井上は常にケガと向き合いながら日々を過ごしてきた。
明治安田J1百年構想リーグが開催される特別シーズンに向けた始動日は1月5日。その日から別メニューでの調整が続き、鹿児島キャンプで一度は完全合流したものの、同キャンプで初の実戦を迎える前に再離脱。百年構想リーグ開幕直後、メンバー表に背番号8が載ることはなかった。
彼が清水でのデビューを飾ったのは、4月1日の百年構想リーグ第11節・ヴィッセル神戸戦。当時、チームはウインガーに負傷者が続出しており、後半頭から[3-4-2-1]のシャドーに入った。
続く5日の第9節V・ファーレン長崎戦では、加入後初の先発に名を連ね、嶋本悠大のプロ初ゴールをお膳立て。11日の第10節サンフレッチェ広島戦では78分間プレーし、誰もが「ここから」と期待した中、彼は再び公式戦のピッチから姿を消した。
ケガの状態は思わしくなく、百年構想リーグの開催期間中、彼は公式戦のピッチに立つことはおろか、練習に戻ってくることもできなかった。2026/27明治安田J1リーグに向けてチームが再始動しようとも、練習の中に背番号8の姿はない。
オーストリアキャンプにも間に合わず、今季の開幕にも間に合わず、彼は暗く長いトンネルの中にいた。
けれども、常に「一歩一歩ですね」と口にしていた彼は、いつだって気持ちを切らしてはいなかった。ピッチには立てずとも、彼なりの“共に闘う”気持ちの表れは、随所で目立っていた。
ピッチの外でも変わらぬ姿勢

清水エスパルス 井上健太【写真:榊原拓海】
たとえば、試合中の一幕。試合当日のメンバー外となった選手たちは、例外もあるにせよ、基本的には記者席の前方に座ることが多い。
一列になった選手たちの中で、彼はワンプレー、ワンプレーに対して激しくリアクションする姿が、誰よりも目立っていた。何気ないプレーにも感情をむき出しにし、勝利の際にはガッツポーズをする。自身がピッチに立っていない試合だろうと、気持ちは切れないのだと、強く感じた。
加えて、自身はリハビリメニューに専念していたオーストリアキャンプの最中、井上から声をかけられたことがある。聞くと、その日が誕生日だった鈴木奎吾の記事を書いてくれないかという話だった。
井上は常日頃、練習場では自ら率先して若手選手に声をかけ、特に鈴木や日髙華杜らの良い“兄貴分”として振る舞っている。だが、話をしていると、決して“仲が良いから”という理由ではなく、プレイヤーとしての鈴木を非常に高く評価していることがひしひしと伝わってきた。
加入直後、「僕はタイトルを獲るために、タカさん(吉田孝行監督)に呼んでもらったと思っています。そのためには、僕ら選手も視座や目線を上げていかなければ」と強い思いを口にし、若手が伸びるためのアドバイスも率先して続けてきた選手が、クラブのことを考えていないはずがない。
もちろん、自らがピッチに立てない歯痒さはあったに違いない。ただし、クラブ全体を見つめながらも、常に自らにベクトルを向け、彼のペースで一歩一歩進んできたからこそ、ピッチ上で自らの価値を証明する機会は、今季の開幕からおよそ1か月後に訪れた。
「できることがあると思っていました」

清水エスパルス 井上健太【写真:榊原拓海】
9月6日、J1リーグ第6節の川崎フロンターレ戦。チームが1点ビハインドだった57分から、彼は今季初出場を果たした。攻撃でエネルギーを与えつつ、守備に穴を開けないよう運動量でカバーする姿勢は、10人と劣勢に立たされたチームに必要だったプレーそのもの。
「流れを変えることは、試合前日に監督からも言われていましたし、外から見ていた感覚で、できることがあると思っていました」との言葉に嘘偽りはない。
清水は68分にオ・セフンがPKで同点弾を奪い、勝ち点を持ち帰れる希望は見せたものの、最終的には1-3で敗れた。
「一度同点にしてから、引いてブロックを敷くのか、それとも、もう少し自分たちでボールを握っていくのか。そこの判断、チーム全体の統一感がなかったことが、もったいなく感じています」と悔やんだのは、組織を俯瞰している井上らしかった。
川崎戦のプレー時間は、およそ30分間。決して長い時間ではなかったが、自らが現時点で“できること”を吉田監督に示すには十分だった。そして何より、ここから先につながる30分間でもあった。
9月12日、井上にとっての“そのとき”がついに訪れた。アイスタで開催された福岡とのホームゲーム、スターティングラインナップには井上の名前があった。時間にして、261日間。ファン・サポーターはもちろんのこと、ケガとの戦いで苦しんできた彼自身も、待ちに待ったアイスタデビューだった。