
清水エスパルス 井上健太【写真:榊原拓海】
261日間の空白を、ただの“空白”にはしなかった。ケガに苦しみ、何度も離脱を繰り返しながらも、井上健太はチームのために戦い、自分自身とも向き合い続けた。そして、ようやく立った新たなホーム『IAIスタジアム日本平』のピッチ。待ち続けた場所で踏み出した一歩は、終わりではなく、ここからを示すものだった。(取材・文:榊原拓海)[2/2ページ]
左サイドで見せた存在感

アビスパ福岡戦で決勝点を挙げた清水エスパルスの嶋本悠大【写真:Getty Images】
「ここまで苦しかったです。想定していなかったほど、ここでのデビューまで時間がかかってしまいました。じれったかったです」
「でも、復帰までの過程で、多くの方々の支えを実感していました。𡈽井達也コンディショニングコーチをはじめとするメディカルの方々を筆頭に、僕を支えてくれた方々の思いに、自分はプレーで応えたい。そう思って、ピッチに立ちました」
左ウイングに入った井上は、持ち前のスピードを前面に押し出した突破だけでなく、左インサイドハーフの嶋本、左サイドバックのマテウス・ブルネッティとうまく連係し、左サイドの攻撃を彩った。
福岡が[5-4]のブロックを敷いてきたこともあり、「相手もスペースを消してきた中で、難しさはありました」と語りつつも、彼が指摘したのはクロスボールの試行回数。スムーズに左サイドで繋ぐことができていたからこそ、今後への改善点も明白だった。
「彼ら(嶋本、ブルネッティ)はボールを持つことができる選手で、相手を見た上でポジションを取ってくれます。お互い、相手を見ながらうまくできた部分はありますが、3人の誰かがクロスを上げるところは、前半からもっとできたと思う。自分が出ている時間帯に、本数を増やしていかなきゃという思いはあります」
自身は67分にピッチを後にしたが、直後の71分に嶋本が均衡を破る。ベンチに下がった後も、井上はまったく座る素振りを見せず、チームを鼓舞し続けた。最終的には嶋本の1点が決勝弾となり、清水は開幕戦以来、実に6試合ぶりの白星と、ホームでの今季初勝利を手にした。
試合展開は川崎戦とは異なり、清水がボールを握り、敵陣へ押し込む構図だった。
「求められることはすべてやりたい」

アビスパ福岡戦のスターティングイレブン【写真:Getty Images】
「焦れることなく、そこをどのように崩していくかが今日のテーマ」とした上で、「カウンターを受けて、失点して負けてしまう流れを一番避けなければならなかった。
そこにチームの統一感は見えましたし、ゼロで抑えて、後半に相手が疲れた時に刺せたことが良かったです」と井上。流れは異なるにせよ、先の川崎戦では“統一感”の不足を悔やんでいただけに、チームとして一歩前進した感覚も、彼の中に生まれている。
川崎戦でチームとしての課題を直に感じられたのも、福岡戦で進歩の実感を得られたのも、自らがピッチに立ち、その一翼を担ったからこそ。コンディションの部分は「めちゃくちゃキツいです」と本音を明かしつつも、その表情には充実感も滲んでいた。
当面の目標は、「ケガを再発させないことが第一」ではある。一方で、自らのプレーに制限をかけるつもりはない。
なぜなら、井上のポジションには、ここまでリーグ戦5試合に先発してきた藤井智也、昨季まで不動の立ち位置を確立していたカピシャーバら、実力者が揃っているから。中途半端な状態でポジションを勝ち取れるはずがないのは、当の井上自身が誰よりもわかっている。
だからこそ、彼は個人として「数字が大事になってくる」と力を込める。「このポジションは、チームの役割的にも、チャンスメイクすることがすべて。求められることはすべてやりたい」。そう話す井上が見据えているのは、ここからの競争だけではない。261日間待ち続けたアイスタで、ようやく始まった新たな日々だ。
「似た雰囲気を感じます」

リーグ戦ホーム初勝利を挙げた清水エスパルス【写真:Getty Images】
初めてアイスタのピッチに立った井上は、かつてプレーしたスタジアムと似た雰囲気を感じ取っていた。前所属先のマリノスは、シーズンによっては何度か、“あるスタジアム”を利用することがある。井上はそんな場所を気に入っていた。
「僕は雰囲気も含めて、三ツ沢(※ニッパツ三ツ沢球技場)が好きだったんです。ただ、アイスタも観客とピッチの距離が近くて、似た雰囲気を感じます。非常に良いスタジアムです」
「勝ちロコにも参加して、ファミリーで味わえるあの瞬間は素晴らしいものだと、改めて感じました。勝つことは簡単ではないですが、一つ一つ積み重ねて、ファン・サポーターの皆さんも含めて、強い集団になっていきたいと思います」
清水は福岡戦からホーム連戦のスケジュールとなっており、19日に控えた第8節ジェフユナイテッド千葉戦も、アイスタで開催される。
「今日はホームの声援があったから勝てました」とファン・サポーターへの感謝を口にした井上は、「次もホームで戦えるアドバンテージがあるので、そこは絶対に生かしたいです」と力を込める。一度アイスタで戦ったからこそ、彼の中には、ここでさらに勝利を重ねたいという欲も生まれている。
261日間待ったからこそ、井上はここからを大事にしなければならない。ようやく立ったアイスタのピッチで、次は何を見せるのか。ケガを乗り越えたウインガーの物語は、まだ始まったばかりだ。
(取材・文:榊原拓海)
【著者プロフィール:榊原拓海】
さかきばら・たくみ/1996年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。学生時代よりWEBメディアの編集業務にアルバイトとして携わり、2024年よりフリーランスとして活動。現在はサッカー専門新聞『エルゴラッソ』にて清水エスパルスを担当。同メディアを中心に、さまざまな媒体に寄稿している。
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