2027/28シーズンから清水エスパルスへの加入内定が決まっている國學院大學3年の辻友翔【写真:Getty Images】
2028年1月から清水エスパルスへの加入が内定している國學院大學3年の辻友翔にとって、8月29日は忘れられない一日になった。清水から急きょ招集され、前日練習で先発を告げられた20歳は、その翌日、初めてJ1のピッチに立った。あまりにも突然訪れたチャンスだった。辻はデビュー戦で何を感じ、ここからどこを目指すのか。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
【2026/27明治安田J1リーグ第4節】
2026年8月29日 清水エスパルス 0-1 柏レイソル
(IAIスタジアム日本平)
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「えっ?」。20歳が思わず耳を疑った、J1先発の知らせ

柏レイソル戦でJ1初先発となった清水エスパルスの辻友翔(下段左から2番目)【写真:Getty Images】
わずか数日の間に國學院大學サッカー部の3年生、20歳の辻友翔は何度も自分の目と耳を疑った。
最初は8月27日。2028年1月の加入が内定している清水エスパルスから入った連絡だった。
今シーズンの開幕と同時にJFA・Jリーグ特別指定選手として清水への登録が完了。國學院大學サッカー部に所属したまま、清水の公式戦に出場できるようになっていた辻はチームへの合流を要請された。
「それまで大学のサッカー部で練習していたので。急きょチームから呼ばれたなかで、たとえメンバーに入ったとしてもリザーブだろうな、と思いながらチームに帯同したんですけど…」
横浜市青葉区内にある國學院大學たまプラーザキャンパス内にあるサッカー部の練習グラウンドから、静岡市清水区内にある練習拠点の三保グラウンドへ。慌ただしく環境を変えた辻は、ホームのIAIスタジアム日本平に柏レイソルを迎える、29日のJ1リーグ第4節へ向けた前日練習への準備を整えていた。
清水の吉田孝行監督から柏戦での先発を告げられ、思わず耳を疑ったのは練習開始前だった。
「ただ単に驚きました。本当に『えっ?』みたいな感じで。監督からは『良さをどんどん出して来い』と言われました。急きょ合流して疲れはありましたけど、プロではそうは言っていられないとも思いました」
前日練習を消化しながら、辻は「選ばれた以上は全力でやるしかない」と覚悟を決めた。
「長く考えるよりは、急に選ばれて逆に良かったと思います。一日の間に気持ちも高められたので」
ポジションは吉田監督がヴィッセル神戸時代から採用する【4-1-2-3】の右ウイング。開幕から3試合連続で先発し、この時点でチーム唯一のゴールを決めている北川航也は柏戦のメンバーに入っていない。
現時点までに清水側からの正式なアナウンスはない。それでも7月26日に30歳になったばかりの副キャプテンに、何らかのアクシデントが発生し、戦線離脱を余儀なくされたのは明らかだった。
清水は今シーズンから新設されたU-21 Jリーグに参戦している。そして、23日に浦和レッズと対峙した東西リーグラウンドEAST開幕戦で先発し、86分までプレーした辻に白羽の矢が立てられたのだろう。
迎えた柏戦のキックオフ。ピッチへ入場してきた辻の視界に驚くべき光景が飛び込んできた。
「言うまでもなく自分のキャリアのなかで…」J1デビュー戦で20歳が示した持ち味

柏レイソルの杉岡大暉と競り合う清水エスパルスの辻友翔【写真:Getty Images】
同じスタジアムで6日前に行われた浦和との東西リーグラウンドEAST開幕戦でわずか2043人だった入場者数は、1万4211人へはね上がっていた。自身のキャリアを振り返りながら辻が苦笑する。
「高校生のときにチームは全国高校サッカー選手権大会に出たんですけど、自分は退場処分を受けていた関係で試合には出られなかったので。言うまでもなく自分のキャリアのなかで一番多い観客数でした」
辻がキャプテンを務めた帝京第三高校(山梨)は、2023年度の全国高校サッカー選手権大会に8年ぶりに出場した。しかし、辻自身は開幕直前のプリンスリーグ関東参入戦でレッドカードを受けてしまった。
ボランチの辻を出場停止で欠いた帝京第三は、1回戦で初芝橋本(和歌山)に2-3で敗れて姿を消した。大学での捲土重来を期した辻だったが、名門・中央大学のセレクションで不合格を告げられた。
そして、白須真介監督が熱心に誘ってくれた國學院大學サッカー部の門を叩いた。当時は関東大学サッカーリーグ3部を戦っていたチームを、リーグ新人王を獲得した自身の活躍もあって1年で2部に昇格させた。
「ただ、昨シーズンは降格しちゃったので、今シーズンはまた3部を戦っています」
こう語った辻がスタジアムを熱狂させ、雰囲気を一変させたのは0-0で迎えた19分だった。
柏の山内日向汰からのパスがわずかに合わなかったなかで、杉岡大暉が利き足とは逆の右足を何とかボールに当てる。そこへ猛然と詰めてきたのが辻。ボールを胸の部分に当てて自身の前方に弾ませた。
前がかりになっていた柏の選手は誰も反応できない。逆に前がかりになっていた辻は素早くボールを拾い、ストロングポイントのひとつだと自負するドリブルで乾坤一擲のカウンターを発動させる。
ハーフウェイライン手前の右サイドから、背番号「38」がどんどん前へ加速していく。必死に追走した柏の中川敦瑛がペナルティーエリア手前で辻の背後から手をかけ、最後はなぎ倒すようにして止めた。
中川のファウルを告げる笛を吹かなかった福島孝一郎主審のジャッジに対して、吉田監督やベンチの選手たちが大きなジェスチャーを介して激怒する。清水ファンが発した大音量のブーイングも注がれる。
「(サッカーは)審判が絶対なので仕方がない部分はありますし、逆にああいうところでちゃんと(相手の)前に体を入れたまま、ゴールにまでつなげられるような選手にならないといけないと思いました」
自らにベクトルを向けた辻は、自身のドリブルに導かれたスタジアムの変化に驚かされたと明かす。
「特別指定選手だから関係ないとは思っていない」

柏レイソル戦でJ1デビューを飾った辻友翔【写真:Getty Images】
「自分のプレーで観客の方々が沸いてくれる経験は、いままでになかったものなので。あれが自分の良さもあるので、ああいうプレーをもっと出して、スタジアムの雰囲気をもっともっと良くしていきたい」
國學院大學サッカー部史上で初めてのJリーガー誕生が発表されたのは7月3日だった。全国的にはほぼ無名の存在だった辻は、6月上旬の清水への練習参加を経て、大きな手応えをつかんでいた。
「(内定は)普通に驚きではあったんですけど、練習参加のときに自分なりにけっこう良いプレーができたと思っていました。タカさん(吉田監督)のサッカーは自分のスタイルに合う、とも感じていたので。
それに練習参加を終えた時点で、強化部の方からは『オファーを出すつもりでいる』とも言われていた。実際に連絡を受けたときは素直にうれしかったですし、もちろん即決でした」
柏戦で木下康介との交代で65分にベンチへ下がった辻は、先輩選手たちから「良かったよ」とねぎらわれた。しかし、試合は71分に決められた先制点を取り返せないまま、3試合続けて0-1のスコアで敗れた。
「自分ももうチームの一員なので。特別指定選手だから関係ないとは思っていないですし、そのなかでも前線の選手としてより得点にこだわって、勝利に導ける選手になれるように努力していかないといけない」
周囲からは及第点をもらえた。もっとも、デビュー戦にしては、という意味も込められている。柏戦で清水が放ったシュートはわずか2本でともに枠外。攻撃陣のシュートは0だった結果が辻を悔しがらせる。