
横浜F・マリノスの田中雄大【写真:Getty Images】
待ち続けたチャンスで、その存在価値を示した。横浜F・マリノスは10月28日、2026/27 JリーグYBCルヴァンカップ1stラウンド4回戦でサンフレッチェ広島を4-3で下した。大幅なターンオーバーを敢行した一戦で、プロ初出場・初先発を飾ったのがMF田中雄大だ。得意のキックで先制点の起点となり、攻守に存在感を発揮。出場機会を待ち続けた背番号32が、ついにつかんだ第一歩とは。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
【2026/27 JリーグYBCルヴァンカップ1stラウンド4回戦】
2026年10月28日 横浜F・マリノス 4-3 サンフレッチェ広島
(ニッパツ三ツ沢球技場)
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「前が見えたら絶対振ろう」待ち続けたデビュー戦で見せた存在感

ルヴァンカップ4回戦、サンフレッチェ広島戦で横浜F・マリノスデビューを飾った田中雄大(写真下段左から3番目)【写真:Getty Images】
「まずは自分のデビュー戦もそうですけど、チームとして勝てていない期間が続いてたなかで、リーグ戦ではないんですけど、きょうこうやってルヴァンの試合で勝つことができて、1個チームとして勢いがついたのかなと思います」
公式戦8連戦中の7戦目。過密日程のなか、横浜F・マリノスはサンフレッチェ広島とのルヴァンカップ4回戦で大幅なターンオーバーを敢行した。
9月以降は公式戦11試合無敗を続けていたものの、リーグ戦では4試合連続引き分けと勝ち切れない試合が続いていた。そんな状況で、現在リーグ戦3位と好調の広島を4-3で撃破。出場機会の限られていた選手たちが躍動し、準々決勝進出をつかみ取った。
この勝利で大きな収穫となった一人が、プロ初出場・初先発を飾ったMF田中雄大だ。
慶應義塾大学から加入した背番号32は、喜田拓也とのダブルボランチの一角として、序盤こそ慎重な入りを見せたが、徐々に存在感を増していった。
11分には、ペナルティーエリア手前から思い切って右足を振り抜く。ブレ球気味のミドルシュートはポストを直撃し、惜しくもプロ初ゴールとはならなかった。
「シュートに関しては本当にもうどんな距離でも、前が見えたら絶対振ろうっていうのは自分の中で思ってましたし、試合前に先輩方からも『絶対振れよ』っていうのは言われてたので。
ボールが来る前にはもう振ろうっていうところは強く思っていました。本当は決めきりたかったですけど、結果的にポストに阻まれてしまったところは、自分のこれからの課題かなというふうに思います」
見せ場はシュートだけではない。中央でボールを引き取り、相手のプレッシャーを外しながら前方へ展開。対角へのロングフィードや中距離のパスを織り交ぜ、攻撃に変化を加えた。
17分には広島のカウンターを食い止め、ボールを奪われることなく、相手をルーレットでかわす場面もあった。球際の強さやボールを保持する技術も印象的だった。
スティーブ・コリカ監督も試合後の会見で、田中のプレーを高く評価している。
「田中雄大に関しては、本当に素晴らしかったです。ゲームに入っていくのに5分から10分ほどかかった印象はありましたが、全体を通して素晴らしいものだったと思います。疲れも出てきて、交代しましたけど、すごく良いパフォーマンスでした」
初出場でありながら、落ち着いたプレーで攻守に持ち味を発揮した。
田中の特徴が得点につながったのは、53分だった。
先制点の起点となった一本の縦パス。見えた武器と課題

プロ初出場・初先発ながら落ち着いたプレーをみせた田中雄大【写真:Getty Images】
中盤でボールを持った田中が、前方へ縦パスを送る。受けた三井寺眞が相手の股を抜くスルーパスを通すと、抜け出した二田理央がゴールを決めた。
先制点の起点となった田中の判断には、前半からの積み重ねがあった。
「自分が前半からかなりロングボールだったり、背後に落とすボールを対応しているなかで顔を上げた瞬間に理央が背後に抜けてくれて、その間に眞が顔を出してくれてたので。
自分の顔を上げたタイミングで相手はラインが下がっていましたし、前半から使っていたロングボールが後半になって相手のラインを下げることにつながって、結果的に間が空いて、それが眞と理央のクオリティでゴールにつながって良かったなというふうに思います」
長いボールを繰り返すことで相手の最終ラインを押し下げ、生まれたスペースへ縦パスを差し込む。キックの精度だけでなく、相手の守備を動かす判断力も示した。
今季のマリノスのボランチでは喜田や鹿島アントラーズから加入した知念慶、アカデミー出身の山根陸、松村晃助らがポジションを争う。知念が10月21日の東京ヴェルディ戦で負傷したこともあり、田中が持つ多彩なキックは新たな選択肢になり得る。
ただ、田中自身はこの日のプレーに満足しているわけではない。前半早々に警告を受けた場面を「自分の軽率なプレー」と反省し、チームのための動きにも課題を挙げた。
「本当にそういうゲーム運びだったり、自分の良さを出し続けることがチームのためにすべてなるとは思ってないので、一個、自分が犠牲になってだとか、チームのためにランニングを入れるだとかは、まだまだ課題です。
自分の軽率なプレーでカードを早い時間帯にもらってしまうところは、その後のプレー強度にもつながると思うので、これからまだまだ伸ばしていかなきゃいけないなというふうに思っています」
デビュー戦で見せた技術と判断力。そして、課題を冷静に見つめる姿勢。田中が今後のポジション争いに加わるための材料は、確かに示された。
「本当に悔しい思い」何度もベンチ入りしながら届かなかった出場機会

トレーニングで汗を流す横浜F・マリノスの田中雄大【写真:編集部】
田中は三菱養和SCユース出身。1年間の浪人生活を経て慶應義塾大学に進学し、マリノスのOBである中町公祐監督のもとで成長を遂げた。
大学では下級生時代から頭角を現し、最終学年には主将としてチームをけん引。長短のパスを使い分ける右足のキックを武器に評価を高め、2025年8月15日にはマリノスへの2026シーズン加入内定と特別指定選手への認定が発表された。
同年9月7日のルヴァンカップ準々決勝・柏レイソル戦、12月6日のリーグ最終節・鹿島戦でベンチ入りしたものの、出場機会は訪れなかった。
正式加入後も、出場機会をつかむことはできなかった。
2026年のJ1百年構想リーグでは、3月18日の水戸ホーリーホック戦や同22日の川崎フロンターレ戦などでベンチ入り。今シーズンに入ってからも、天皇杯やルヴァンカップ、リーグ戦でメンバーに選ばれながら、ピッチに立つ機会はなかった。
喜田や知念、山根、松村らがしのぎを削るボランチのポジション。チーム内の競争は激しく、ベンチ入りを果たしても、その先の一歩を踏み出すことは容易ではなかった。
「ずっと百年構想リーグのところから、自分の出場機会はなくて、本当に悔しい思いだったりっていうのを強く思ってた」
ようやく訪れたデビュー戦。田中にとって、ニッパツ三ツ沢球技場で見た光景は格別だった。
「きょうこうやって素晴らしい環境で、素晴らしいサポーターの前でプレーできたところは本当に選手である以上、この上ない喜びだと思いますし、そういう環境できょうデビューできて、それが結果的に勝利につながったところは最高の景色だったのかなというふうに思います」
先制点が決まった直後にも、忘れられない場面があった。
「自分、ちょっと疲れてたので、そのまま普通に戻ろうかなって思ってたんですけど、喜田くんが『行こう』っていうふうに言ってくれて。粋な計らいじゃないですけど、一緒にサポーターの前まで行って、理央の先制ゴールを一緒に喜び分かち合うところで、良い景色を見させてもらいました」
待ち続けた時間が、報われた瞬間でもあった。