良いポジショニングを可視化するのは難しい
久永 うまくデータを活用できるクラブは、自分たちの課題が何で、どこにデータを使えばいいのかが明確なので、やりやすいです。あとはどうしても、戦術にデータを使うよりは、コンディション把握やチーム編成などのほうが使いやすいですね。
――戦術はハードルが高いと。
久永 そうですね。ポジショニングはすごく難しいと思います。選手の能力によっても違います。例えば各人のスピードを考えると、どの距離ならボールが出ても寄せられるのか、どこに居るのが最適なのか、なかなか一概には言えません。試合の条件や相手の能力も違う中で、良いポジショニングを可視化するのは難しい。
岩政 その位置は、どういう単位で測れますか? 数センチ単位ですか?
久永 数センチも測れますが、現場での活用を考えると1メートル単位とかが扱いやすい気はしています。
岩政 たとえば、各エリアで相手がボールを持ったとき、その選手がアプローチした平均の間合いは出せますか?
久永 出せます。座標の情報があるので、計算すれば出ます。
岩政 それはありかもしれない。「良いアプローチ」と言っても、その判断は場面によって評価が変わるけど、相手がエリアごとにファーストタッチしたとき、いちばん近い守備選手が居た距離によって、チームのインテンシティはある程度測れる気がします。
久永 それはそうですね。
西内 逆にオフェンス側も、いかに半径何メートル以内に敵がいない状態でパスを受けられるか。
岩政 そうそう。それもできるかもしれないですね。
西内 間合いは大体、何メートルくらいに相手が入ってきたら嫌なものですか?
岩政 うーん、そうだなあ……人によって変わりますけど、2メートル離れてしまうと、もうプレッシャーにはならない。パスコースは切れているかもしれないけど。
西内 そうするとプレッシング戦術なら、指標はボールホルダーに1メートルくらいですかね。
【データスタジアム株式会社】
サッカーをはじめ野球やラグビー、バスケットボール、バレーボールなど様々なスポーツの試合内容をデータ化・分析、企画制作した情報を各種メディア向けに配信。 その他スポーツ団体・選手サポート事業、映像コンテンツ事業なども手掛ける。サッカー界ではJリーグメディアプロモーションとオフィシャルサプライヤー契約を締結しており、Jリーグにおける各種数値の可視化に貢献する。
▽ 岩政大樹
1982 年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。2010 年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。現在は解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行うなど、多方面に活躍の場を広げている。今年3月には『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』(カンゼン)を上梓した。
▽ 久永 啓
1977 年9月10日生まれ、岡山県出身。早稲田大学人間科学部卒業、筑波大学大学院体育研究科修了。2006 年からサンフレッチェ広島のアカデミーコーチに就任すると、2012 年から森保一監督(当時、現日本代表監督)の下でトップチームのコーチとして分析担当を務め、Jリーグ連覇に貢献した。 広島での経験からデータ分析の大きな可能性を感じ、2014 年からデータスタジアム株式会社で主にフットボール事業部のアナリストとして活躍。育成年代からプロレベルまで幅広い分析サポートや、アナリスト育成を担当する。
※データスタジアム主催のスポーツアナリスト育成講座https://www.datastadium.co.jp/analyst/training/
▽ 西内 啓
1981年4月20日生まれ、兵庫県出身。統計家。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経て、多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。著書である『統計学が最強の学問である』は2014 年度ビジネス書大賞を受賞しベストセラーに。その他著書多数。2017 年には第10回日本統計学会出版賞を受賞。サッカーへの造詣も深い。2015 年からはJリーグとアドバイザー契約を結び、Jリーグが推進する各プロジェクトへの助言や提言を行う立場にある。