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J1 2か月前

「正直、波があると…」サンフレッチェ広島、田中聡の胸中。「まだまだ足りないなという気持ちはあります。だけど…」【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子

 明治安田J1リーグ第35節が25日に行われ、サンフレッチェ広島は敵地で横浜F・マリノスと対戦した。優勝争いに望みを繋ぐ上で重要な一戦だったが、広島は下位に沈むマリノス相手に0-3で完敗。途中出場の田中聡は痛恨のPKを与えてしまい、黒星の一因に。次の正念場が来週に迫るなか、同選手の胸中は…。(取材・文:元川悦子)

もう一試合も落とせないサンフレッチェ広島

田中聡 サンフレッチェ広島
【写真:NN】

 2022年のミヒャエル・スキッベ監督就任以降、3位・3位・2位と着実にJ1での順位を上げてきたサンフレッチェ広島。レジェンド・青山敏弘が引退した昨季は最終節でタイトルを逃しているだけに、「今季こそは頂点に立つ」という強い思いをチーム全員が抱き、戦ってきたはずだ。

 けれども、今季は一度も首位に立つことなく、10月25日の第35節、横浜F・マリノス戦を迎えることになった。

 広島の戦い自体は決して悪くなく、直近も8月23日の東京ヴェルディ戦から7戦無敗で来ていたが、勝ち切れないのは相変わらず。34戦終了時点では勝ち点59の5位という苦境に直面していた。

 首位・鹿島アントラーズと7ポイント差ということで、残り4試合は1つも落とせない。9月以降、YBCルヴァンカップ、天皇杯、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の4トーナメントを並行して戦っているため、チームの疲弊は著しいものがあるが、何とか乗り切る必要があった。

 今週も10月21日にACLEのアウェイ・蔚山HD FC戦を消化。移動を伴う中3日で横浜へ赴いた。

 指揮官もスタメンを6人変更し、ヴァレール・ジェルマンやジャーメイン良、菅大輝らをスタートから起用。チームの活性化を狙った。

 その攻撃陣が早い時間帯に得点を奪えればよかったが、広島は開始12分にGK大迫敬介のロングパスを相手キャプテン・喜田拓也に拾われ、そこからダイレクトに前線に出され、最終的に植中朝日に巧みな先制弾を決められてしまう。

復帰の田中聡が考えていたこと

 マリノスの前半のシュートはこの1本だけ。主導権を握り続けていただけに、この展開は厳しいものがあった。

 そこで指揮官は後半頭に3枚替え。ピッチに送り出された1人が田中聡だった。

 彼は12日のルヴァン杯・横浜FC戦で顔面骨折・脳震盪の重傷を負い、その後のJ1・FC東京戦とACLE・蔚山戦の2試合を欠場していた。

 11月1日のルヴァン杯決勝・柏レイソル戦の出場も微妙と見られたが、予想以上に早い復帰でチーム全体を安心させた。

 田中がボランチに入って塩谷司とコンビを組んだことで、川辺駿が一列上がって加藤陸次樹とシャドウを形成。ジャーメインが最前列に位置し、左ウイングバック(WB)に中村草太が陣取る形となったが、田中は攻撃になると前がかりになって攻撃姿勢を鮮明にした。

「自分たち中盤が遠くからシュートを狙えたりすれば、相手にとって脅威になる。そうすることでFW陣が空いてくる」と背番号14は考え、虎視眈々とミドルシュートのチャンスを窺ったが、なかなか好機は訪れなかった。

 その後、スキッベ監督は58分に木下康介と東俊希を投入。中村をシャドウに移動させ、ジャーメインも2列目に戻したことで、ようやく有効な攻めのチャンスが生まれるようになる。

 最たるものが66分の中村の幻のゴールだ。

痛恨のワンプレー「ああいう足の出し方は…」

 右に開いたジャーメインから木下がタメて左に流し、東がえぐって折り返したところに背番号39が飛び込むという、理想的な形だった。

 だが、これはVARでオフサイドと判定され、取り消しに。スキッベ監督の落胆も大きかったはずだ。

 終盤には荒木隼人を最前線に起用する奇策もあったが、それでも1点が遠い。そして0-1のまま迎えた83分、田中聡が致命的なミスを犯してしまう。

 相手の天野純の足をペナルティエリア内で引っかけてしまい、PKを献上してしまったのだ。これもVAR判定となったが、最終的に認められ、天野がゴール。この時点で広島の敗戦は決定的になった。

「PKがなかったら勝ち越せていたかもしれないし、同点で勝ち点1を拾えていたかもしれない。チームにすごい迷惑をかけちゃったなと思います。

 ああいう足の出し方は普段しないんですけど、こういう大事な時に出ちゃった。自分としてはボールを(レフェリーに)アピールしましたけど、映像を見たら足にも行っていた。取られてもしょうがないなっていうのはあるんで、本当にもったいなかった」と本人も悔しさを吐露した。

 フェイスガードを装着しながらのプレーで違和感があったうえ、2週間ぶりの公式戦ということで、リズムをつかみ切れなかったのは確かだろう。

 それでも、絶対に勝ち点3がほしかった大一番で流れを失う一因を作ったのは事実だというしかない。そこは田中自身も猛省するしかない。

「だけど、広島に何かを残したいという思いは…」

 結局、広島はロスタイムにも右CKからジェイソン・キニョーネスに3点目を奪われ、0−3で完敗。今季リーグ最多失点を喫して、悲願のJ1制覇が絶望的になったのだ。

「こういう負け方は悲しいですし、残念な気持ちがあります」とスキッベ監督も悲痛な表情を浮かべたが、救いはまだ2つのタイトルが残っていること。

 田中にしても、今季から広島に移籍し、主力として使われているのだから、ルヴァン杯と天皇杯で取り返すしかないという思いは強いはずだ。

「この試合はもう終わってしまったし、次は大事な試合があるので、そこに向けてみんなでいい準備をするしかない。僕は今年、広島に来ましたけど、試合数も多くて連戦もあってすごく濃いシーズンを過ごさせてもらっている。

 正直、ケガも多くて、パフォーマンスにも波があると思いますし、ベテランのシオ(塩谷)君、隼人君、駿君、(佐々木)翔君に比べるとまだまだ足りないなという気持ちはあります。だけど、広島に何かを残したいという思いはすごく強い。タイトルや勝利を届けたいです」

 1週間後のルヴァン杯決勝に向け、田中自身も常態を引き上げていかなければいけない。そして広島としても深刻な課題である得点力不足解消への努力を続けていくことが肝要だ。

「自分はもっとFWを生かせるようなパスだったり、決定的なパスを出せるようになれば、もっと点につながると思います。

 僕自身も今年はまだ1点しか取っていないので、(4点を取った)昨年に比べたら全然足りない。そこはシーズンの残り2カ月弱でしっかり取り組んでいきたいです」

 本人も語気を強めていたが、東京・国立競技場での大一番で得意のミドルがさく裂し、チームに今季初タイトルをもたらすことができれば、マリノス戦のミスも帳消しになる。

 それを目指して、彼にはもっともっと攻守両面でダイナミックさを発揮してほしい。

 次戦こそは本来の田中聡の雄姿を力強く示すべきである。

(取材・文:元川悦子)

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【了】

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