
サッカー日本代表MF伊東純也【写真:田中伸弥】
2度リードを許しても、サッカー日本代表は動揺しなかった。焦らず、引かず、ゲームプランを貫き続けた89分間。終盤の3枚替えが右サイドに推進力を生み、伊東純也と小川航基の「意思疎通」が生んだヘッドで土壇場の同点を引き寄せた。個の能力で奪ったオランダ代表に対し、組織と継続性で追いついた日本。この勝ち点「1」には、それ以上の意味がある。 (取材・文:河治良幸)[1/2ページ]
数字以上に大きなドロー

チームの1点目をあげた中村敬斗【写真:田中伸弥】
2026 FIFAワールドカップ(北中米W杯)初戦で、日本代表は優勝候補の一角と目されるオランダ代表と2-2で引き分けた。結果だけを見れば勝ち点「1」。しかし、この試合で日本が得たものは数字以上に大きい。
世界屈指の強豪を相手に2度リードを許しながらも追い付き、最後まで勝利を目指して戦い抜いた姿は、現在の日本代表が持つ実力と精神的な成熟を示すものだった。
ダラスで迎えたグループFの初戦。前半は互いに慎重な入りとなり、0-0で折り返した。
日本は守備時に5バックを形成しながらオランダの攻撃を封じる一方、ボールを奪えば久保建英や鎌田大地を中心にカウンターを狙い、世界ランキング上位の相手に対しても臆することなく渡り合った。試合が動いたのは51分だった。
オランダはセットプレーの流れから主将フィルジル・ファン・ダイクが先制ゴールを奪う。日本の守備対応にも反省点はあったが、最後は世界最高峰のセンターバックが見せた勝負強さだった。
しかし、日本は下を向かなかった。失点からわずか6分後、中村敬斗が同点弾を叩き込む。大会前のアイスランド戦では本来の輝きを見せられなかったアタッカーが、大舞台で結果を残した。
「ターゲットとなる選手を入れた」

日本代表FW小川航基【写真:Getty Images】
喜びもつかの間、オランダも再び牙をむく。64分、左サイドからの展開でボールを受けたサマーフィルが強烈なシュートをゴールへ突き刺した。これも日本の守備のズレだけでは説明できない。
GK鈴木彩艶でも反応が難しいコースへの見事なフィニッシュであり、世界トップレベルの個の能力が生み出したゴールだった。それでも日本は崩れない。
この試合で最も評価されるべきなのは、2度の失点を喫しながら、精神的な動揺によって試合そのものを失わなかったことだ。森保一監督は試合後、「押し込まれる状況の中でも焦れずに陣地を挽回しながら耐えて、攻撃のチャンスをうかがった」と振り返った。
もちろん理想は無失点、少なくとも相手にリードを許さないで自分たちが得点することだ。しかし、いざ失点しても無理に前へ出るわけでもなく、守勢に回るわけでもない。冷静にゲームプランを継続しながら反撃の機会を探り続けたのである。
その姿勢を象徴したのが75分の交代策だった。デンゼル・ダンフリースとの接触で負傷した久保建英に代えて、小川航基を投入すると同時に、菅原由勢と冨安健洋も送り込む。
森保監督は「攻撃的な選手をより前線に配置し、ターゲットとなる選手を入れた」と説明したが、この“3枚替え”によって日本の攻撃は一気に活性化した。
「相手が寄せてこないと感じたので…」

右サイドで躍動する伊東純也【写真:Getty Images】
冨安が右センターバックに入り、菅原が高い位置を取ることで右サイドに推進力が生まれる。そこへ伊東純也が加わり、オランダ守備陣を押し込み始めた。
伊東は「自分が入ってからうまく右サイドでチャンスを多く作れたと思う。相手が寄せてこないと感じたので、シンプルにクロスを上げたり、裏へ抜けたりすることを意識した」と明かしている。
日本の圧力はオランダにも影響を与えた。ロナルド・クーマン監督は81分、ナタン・アケを投入して5バックへ変更。リードしている側が守備強化を迫られたこと自体、日本が試合終盤の主導権を握り始めていた証拠だ。
そして89分、日本は右サイドから獲得したCKでついに追いつく。
キッカーの伊東は、それまでの配球を踏まえ、「真ん中やファーだと合わないと思ったので、少しマイナス気味に速いボールを入れた」と振り返る。そこへ飛び込んだのが途中出場の小川だった。
決定的な仕事を果たしたストライカーが得点シーンをこう語る。