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欧州で成功する選手、失敗する選手【サッカー批評 issue52】

『海外移籍の真価を問う』
言うまでもなく“外国人選手”として欧州のトップリーグで活躍することは容易ではない。何をもって成功や失敗とするのかというのはあるが、現実には活躍する選手がいる一方、なかなか試合に出られない選手もいる。欧州で実績を残すために必要なことは何か考えたい。

text by 木崎伸也 photo by Kenzaburo Matsuoka


様々なポジションをこなし、プレー機会を得ている長谷部誠【写真:松岡健三郎】

成功のキーワード1「日本時代のプレースタイルに固執しない」

 かつて小説家の森鴎外は、自らのドイツ留学経験を踏まえて「椋鳥主義」という考えを提唱したことがある。ムクドリのようにぼーっとした人間の方が外国では成功することが多い、という考えだ。

『?外論集』のなかで、?外はこう綴った。

「その頃日本人がヨーロッパに来る度に様子を観ておりました。どうもヨーロッパに来た時に非常にてきぱき物のわかるらしい人、まごつかない人、そう云う人が存外後に大きくならない。そこで私は椋鳥主義と云うことを考えた。それはどう云うわけかと云うと、西洋にひょこりと日本人が出て来て、いわゆる椋鳥のような風をしている。非常にぼんやりしている。そう云う椋鳥がかえって後に成功します。それに私は驚いたのです」

 要領がいいだけの人は、外国に来ても新しいことを吸収する隙間が残っていない。それに対して、最初は何もわからない人が、最後には自分の考えをしっかりと持つようになる。鴎外はそういう例を何度も目にしたというのだ。だから、ヨーロッパに来るならば、完成されてないタイプの方がいいと。

 これはサッカーの世界にも、当てはまるのではないだろうか。

 Jリーグでプレースタイルを完成させた選手よりも、ヨーロッパでどんどん自分のスタイルを変えていこうとする選手の方が、のびしろが大きいだろう。

柔軟なプレースタイルこそが成功への近道

 長谷部誠は浦和レッズでは攻撃的なボランチだったが、ボルフスブルクでは組織の穴を埋めるバランサーとして力を伸ばし、今ではサイドバックやトップ下も任されるマルチプレイヤーになった。香川真司はセレッソ大阪でサイドアタッカーだったが、ドルトムントでは攻撃のスイッチを入れるトップ下として新境地を開いた。岡崎慎司はピッチを走り回って守備をするサイドハーフとして、今年2月にシュツットガルトに加入するとすぐに先発に定着した。

 歴史を遡れば、奥寺康彦は左ウィングとしてケルンに入団し、ヘルタ・ベルリンで右サイドバックにコンバートされた。それを観たレハーゲル監督がブレーメンに引き抜き、左右どちらでもプレーできるサイドバックになった。当時ヨーロッパ最高峰と言われたブンデスリーガで、9年間もプレーできたのは常にプレースタイルを変化させたからと言っていいだろう。

 それに対して、日本時代のプレースタイルにこだわりすぎると、一時的に出番はまわってきても、長期的な結果を出すことはできないように思う。

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