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日本代表 11年前

〔アジアカップ総括〕日本は「アジアのバルセロナ」を超えられるか?【サッカー批評 issue50】

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

コンディションの不備

 日本が、持っているクオリティを常時発揮できなかった最大の要因は準備不足である。

 カタールに乗り込む前、日本代表はキャンプを行っているが、選手がそろっていなかった。天皇杯を戦っている選手がいたからだ。

 アジアカップの準備を第一に考えるなら、天皇杯の予定を前倒ししてでも、全選手をそろえるべきだった。ただ、過去のアジアカップを振り返ってみても、日本が万全の態勢で臨んだことはない。日本サッカー協会にとって、アジアカップはワールドカップとは違って、さほど優先順位が高くない大会のようである。

 前回のアジアカップも直前の準備期間は短く、イビチャ・オシム監督はグループリーグを戦いながらコンディションを作っていく手法をとっていた。当時、ジャーナリストの後藤健生氏が評していたように、“ベトナム合宿”だった。今回はそれが“カタール合宿”に変わっただけで、いわばアジアカップ開幕後にアジアカップのための準備をしていたことになる。 その前のジーコ監督のときの中国大会は、負傷等で多くの主力選手が不参加。フィリップ・トルシエ監督のレバノン大会のときは、直前にシドニー五輪があったため、メンバー構成を変えて臨んでいた。

あまりにもタイミングの悪かった開催時期

 アジアカップは万難を排してもタイトルを狙う、優先順位第一の大会ではなかった。今回も、そうした過去の慣例に従ったといえばそうなのかもしれない。ただし、今回はあまりにもタイミングが悪かった。

 アルベルト・ザッケローニ監督が就任してから、親善試合を2つしただけ。ホームのアルゼンチン戦とアウェーの韓国戦だけだ。アジアカップ用の準備試合はなし。アルゼンチン、韓国との2試合が上々の出来だったとはいえ、アジアカップで中東勢と戦うのとはゲームの性質が違う。日本はぶっつけ本番で大会に臨んだも同然だった。

 個々の選手のコンディションが不ぞろいなのはいうまでもなく、選手自体がそろわず、テストゲームもなしでは、満足な戦術的な準備などもできるはずがない。

 ザッケローニ監督は、大会中に何度も準備不足に言及していた。「いい結果を出したいが、フィジカルコンディションがなければ勝てないこともある。日本は準備が遅れているので、大会中に取り戻したい」

 これはグループリーグ突破後のコメントだが、そのときにこんなことも言っていた。「ユーロ92ではデンマークが優勝して、そんなこともあるのかと驚いたこともあった」 ザッケローニ監督のコメントは、実にそつがない。率直ではあるが洗練されていて、何かに不満があっても事を荒立てたりしない。このコメントもそうだった。ザッケローニ監督の言った「ユーロ92のデンマーク」とは、全く大会に向けて準備をしなかったチームの例である。

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