準備ゼロで大会に臨むチームはない
92年のヨーロッパ選手権、デンマークは予選で敗退していて、スウェーデンでの本大会には出場しないはずだった。デンマークのグループを勝ち抜いたのは、当時オシム監督が率いていたユーゴスラビア代表である。
ところが、ユーゴの内戦が激化して出場資格を剥奪されたため、グループ2位だったデンマークが急遽代替出場することになった。選手はバカンスを取りやめ、あるいは休暇先から駆けつけた。準備ゼロ、プレッシャーもゼロ。それがいいほうに転がり、デンマークはこの大会に優勝する。ジョゼ・モウリーニョは、このときのデンマークについて、「長いシーズンで疲弊した選手に必要なのは合宿より休養なのだ」
と、語っている。準備をせずに休んでいたことが、かえって良かったのではないかという見解である。
しかし、デンマークの奇跡を見た後でも、準備ゼロで重要な大会に臨むチームは見あたらない。ザッケローニが日本に重ね合わせていたデンマークとは、準備ゼロで大会に臨んだチームのことなのだ。
日本は自らハンデを負う必要はあったのか
日本の準備はゼロではなかったが、シーズンを終えて疲弊している選手と、さらに天皇杯まで戦った選手による準備という点で、デンマークより中途半端で状況は最悪だった。唯一、ロシアリーグ以外でプレーする欧州組はシーズン中なのでコンディションは問題ない。それだけが救いだった。
結局、ザッケローニ監督の「大会中に取り戻したい」という希望はかなえられなかった。決勝の後にはこう話していた。「決勝までに選手が消耗してしまい、岡崎は準決勝の後は歩いてもいなかったし、本田圭、長谷部、遠藤らも別メニューだった。フィジカル的に限界だった」
むしろ、その状態でよくフィジカル勝負のオーストラリアの猛攻に耐えられたものだ。日本は準備不足という重いハンデを背負いながら優勝した。しかし、自らハンデを負う必要はあったのだろうか。