アジアのバルセロナ
「日本はアジアのバルセロナだ」
カタールのブルーノ・メツ監督は、日本を世界的な強豪クラブにたとえた。
確かに、日本はあるときはバルセロナのようにプレーした。
アジアカップの日本は、他のチームとはプレーの質が違っていた。例えば、ドリブルで突破していく能力では日本選手より他国のほうが優れていたかもしれない。速く走ったり、強く当たる能力でも、日本はそれほど優れていたとはいえない。日本の長所はそこではないのだ。
日本の良さはパスワークに表れていた。とくにワンタッチプレーの上手さだ。その点で、日本は最も速くプレーできるチームだった。
準々決勝で韓国と対戦したイランは、前半何もできなかった。韓国に速く寄せられると、プレーできなかった。ところが、後半の途中から韓国の寄せていくスピードが鈍ると、イランは正確なパスや突破が増えて盛り返していった。つまり、ある程度のスペースと時間を与えられるとイランは良いプレーをするが、それが少ないとほとんどプレーできない。ワンタッチプレーができないのだ。
イランの選手が技術的にワンタッチプレーができないわけではないと思う。そういう状況に慣れていない、そういうゲームに対応するプレーの習慣がないのだろう。ボールをプレーする選手だけの問題ではなく、周囲の選手のポジショニングの問題でもある。
日本とイランでは違うゲームをやっている
日本と韓国には、その問題はなかった。とくに日本は、準決勝の前半には韓国のプレスをかわして素晴らしい攻撃を組み立てている。韓国に準々決勝の疲労が残っていたのは確かだが、日本とイランではプレーの質が違うのだ。違うゲームをやっている、といってもいいかもしれない。
かつて横浜フリューゲルスの監督を務めたカルレス・レシャックは、バルセロナの監督やドリームチームのコーチとして知られているが、横浜フリューゲルス時代にこんなことがあったそうだ。「ワンタッチで相手ゴール前まで運んでいくと言うと、そんなことは無理だろうとよく言われたものだ」
バルセロナでは出来ていた。フリューゲルスでも出来るはずだと、レシャックは考えていた。「日本の選手には技術も体力もある。できないのはプレーの方法を知らないからだ」
横浜フリューゲルスでレシャック監督が植え付けようとしたプレーは、残念ながら開花したとはいえない。だが、2011年のカタールでそれは実践されていた。
韓国戦の前半、日本はワンタッチプレーの連続から何度も韓国ゴールを脅かし、そのうちの1つが同点ゴールにつながっている。