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【ロングインタビュー】カルロ・アンチェロッティ、勝者の戦術論(中編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

“欧州最速のカウンター”を武器とするチームへとなったが…

 だが、あの布陣を可能にする上で最も重要な存在だったのは、やはり正真正銘の“メディアーノ(守備的MF)”、いわゆる潰し屋、守備とは何かを知り抜く男、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、彼の驚異的な運動量だった。あの02-03シーズン序盤のミランが、私が率いたチームで最もスペクタクルだったと言えるはずだ。国内リーグでも長くユーベを抑え首位を走り、CLでもバイエルン、デポルティーボ、レアル・マドリー、ドルトムントを破り快進撃を続けていた。結果として国内では持久力に勝るユーベにスクデットを奪われてしまったんだが、しかしCLでは他ならぬそのユーベを倒してタイトルを獲得している。今こうして振り返ってみても、あのミランは実に面白い、そして前衛的で質の高いサッカーを魅せていたと思う」

――しかし、翌03-04シーズンにはカカが入団。

「そう。典型的10番とは明らかに異なる質を備えたトレクアルティスタであるカカが入ったことで、当然のことながら戦術自体も変化することになった。活かすべき最大のポイントは“カカのスピード”だったからね。加えてシェフチェンコをも持っていたミランは、その2人の背後に“典型的10番”である2人を、すなわちピルロとセードルフを置きながらゲームを作り、両サイドをカフーとセルジーニョが猛然と駆上がることで“欧州最速のカウンター”を武器とするチームへと変化していた。一方で、攻守のバランスを欠きがちな部分は、ネスタとマルディーニからなるCB2枚にスタムを加える“3バック的”な修正で補っていた。

 だが、例の“マルタ協定”以降、あの06-07 シーズンにシェフチェンコが去ってからは再び、かつミランでの最後の修正を行うことになった。オーソドックスな4-3-1-2へ。『1』はセードルフ。『2』の1stトップはインザーギまたはロナウドで、2ndトップはもちろんカカ。それ以前に比べれば確かにやや守備的になったんだが、それでもあれは(CLなどの)一発勝負に極めて強い形だった。

 そしてミランで最後の1年半、私はもう1度“超攻撃的”なシステムの実践を目論んでいたんだ。何といってもあの(アレシャンドレ・)パトが加入したからね。考えていたのはロナウドとカカ、セードルフとピルロ、そしてパトを同時に起用するというプラン。事実、パトが加入してから最初の試合(08年1月13日)、つまり彼のセリエAデビュー戦になるんだが、対ナポリにその布陣で臨んだミランは5-2で勝利。だけでなくパトは初ゴールを記録してみせている。最高のスペクタクルを演じてみせたんだが……。しかし様々な理由でそのプランは実現できず、遂に09年の夏、この私がミランから去る時を迎えることになってしまう」

【後編に続く】

初出:欧州サッカー批評5

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