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【ロングインタビュー】カルロ・アンチェロッティ、勝者の戦術論(後編)

このたびレアル・マドリーの監督に就任することが決まったカルロ・アンチェロッティ。これまで率いてきたチームでは、柔軟にシステムを変化させ、選手の人心を巧みに掌握し、セリエA、プレミアリーグ、CL、クラブW杯など数々の功績を残してきた。欧州屈指の強豪をつくりあげてきた 手腕と戦術メソッドとはいかなるものなのか? インタビューはパリ・サンジェルマンの監督に就任した直後のものだが、彼の戦術論を十分に知ることができる。

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

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言葉にする前に選手の胸の内が分かる

――しかしチェルシーでは再び4-4-2へ回帰。その理由とは?

ルロ・アンチェロッティ、勝者の戦術論(後編)
レアル・マドリーの監督に就任が決まったアンチェロッティ。果たしてどんなチームを作るのか?【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】

「極めて単純な話、それはミランで持っていたようなトレクアルティスタがいなかったからだよ。ランパードは実に優れたMFだが、しかし彼はあくまでもミッドフィルダーであってトレクアルティスタではないからね。だけでなく、あのチェルシーは両サイドが分厚く強靭で、前線にはいわゆる“ターミネーター”、ディディエ・ドログバを備えていた。要するに、あのチームには4-4-2こそが最も適していたわけだ。もっといえば、まさに理想的な4-4-2を可能にするメンバーがあのチェルシーには揃っていた、と。

 もちろん、あの形がイングランドでは最も効果的だというのも理由の一つだった。戦術の細かなメカニズムを加味すれば、あの国では4-4-2はより効果的になる」

――そのチェルシーは09年から指揮されたわけですが、戦術面や習慣、環境といった面で総合的に、イングランドサッカーをどのように感じたのでしょうか。

「実に実に素晴らしい! と、そのひと言に尽きるのだろうね。そして、敢えて付け加えれば、我々イタリアのサッカー界はやはり、余りにも多くのことを彼らに学ぶ必要がある、と……。

 トレーニングは“楽しみ”であるからこそケガも少なく、チームを覆う重圧もイタリアのそれに比べれば信じ難いまでに小さいし、無用の緊張がないからこそファンもまた思う存分スタジアムで楽しむことができる。

 ただ、こと戦術という面では確かにレベルは極端に落ちる。選手個々のプレーも“考えたもの”が少ないというべきだろう。ポジショニングの精度が細かく問われることも少ない。したがって私がチェルシーで最も注意を払いながら変化と改善を求めたのはその部分だった。とはいえ、やはりサッカーを取り巻く環境すべてを見渡せば、ほぼすべての面でプレミアが遥か上を行っている」

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