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連載コラム 11年前

W杯前に知るべきブラジル・フッチボール。富裕層に好まれるクラブ、貧困層に愛されるクラブ

シリーズ:W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール text by 田崎健太 photo by Kenta Tazaki , Sachiyuki Nishiyuki

「ネクタイを締めていない人間は猿以下だ」

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ジョアン・アベランジェ【写真:田崎健太】

 支持層の貧富というベクトルで、庶民的なコリンチャンスやフラメンゴと対照的なのが、リオ・デ・ジャネイロのフルミネンセである。1902年に設立、イングランドの影響を強く受けており、上流階級の会員が多かった。

 このフルミネンセの会員の代表的な人物が、ジョアン・アベランジェである。前国際サッカー連盟会長、スポーツ界の生ける怪物だ。

 ジャン・マリー・フォスタン・ゴードフロワ・ド・アベランジェという長い正式名称を持つこの男は、1916年5月8日にリオで生まれた。父親のジョゼフはベルギー人で、ブラジルに移り住んでからは武器商人となっていた。このジョゼフはフルミネンセの会員だった。息子のジョアンもこのクラブで水泳を始めている。

 ぼくはアベランジェに二度話を聞いている緩んだ両頬が特徴な長い顔をしている彼は、高温多湿のリオにもかかわらず、常にスーツとネクタイ姿である。

 一度目に会った時、「ネクタイを締めていない人間は猿以下だ」と無表情に言われた。スーツを着ていって良かったと胸をなで下ろしたものだった。二度目の取材は、突然日程が決まったため、リオでスーツを揃える羽目になった。

 移民国家であるブラジルは、移民の源である古い欧州の影響を色濃く受けている。欧州で失われつつあった風習、格式は、大西洋を越えた南米大陸で冷凍保存されている。アベランジェはそのエキスのような人間で、服装にうるさいのだ。彼の立ち振る舞いは、かつてのフルミネンセの像と重なる。

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