ブラジルになぜかヴェルディ川崎のユニフォーム
ときに他人の手柄まで自らのものとして、自分の功績を声高に主張する人間よりも、ひっそりと信じることをやり遂げてきた人間の方にぼくは興味を感じる。そうした控えめな、名を知られぬ人によって世界は作り上げられてきたのだ――。
95年にブラジルを訪れたとき、サンパウロのスポーツ用品店を見に行ったことを覚えている。ブラジル代表の黄色のユニフォームはもちろん、白と黒のコリンチャンス、緑色のパルメイラス、白と黒と赤のサンパウロFCなど色とりどりのユニフォームがハンガーに掛けて吊されていた。
一枚一枚たぐり寄せて見ていくと見慣れたユニフォームにぶつかった。鮮やかな緑色、右胸の辺りから放射線状に白い線が入り、大きく「YOMIURI」と書かれていた。ヴェルディ川崎のユニフォームだった。
一度もW杯に出場していない日本はサッカーの世界で全くの無名だった。サッカー王国のブラジルでJリーグのクラブのユニフォームを見つけるとは思ってもいなかった。
「どうしてここでヴェルディのユニフォームを売っているの? ヴェルディなんて誰も知らないでしょ?」
店員に尋ねると「毎週Jリーグの試合を中継しているんだよ」と教えられた。ブラジルで日本のサッカーを見ている人がいるのだと嬉しくなった。
その後、様々なブラジル人選手から、日本へ行く前にJリーグの試合を見ていたと聞いた。ジーコが「Jリーグの試合がブラジルで放映されて、日本のサッカーのレベルはそれほど低くないとブラジル人は知ったんだよ」と教えてくれたこともあった。