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Jリーグ 10年前

鹿島アントラーズという環境―大岩剛が見てきた若き内田篤人―

text by 田中滋 photo by Kenzaburo Matsuoka

星の下に生まれた子

――貪欲さへの変化は、向こうに行かれたときに感じたのですか?

鹿島アントラーズという環境―大岩剛が見てきた若き内田篤人―
大岩剛【写真:松岡健三郎】

「いやいやいや。そういうものは普段は出さないですよ。全然出さないけれど、スタジアムで試合を観て、あのスタジアムのなかであれだけのドイツ人がいて、あれだけ見られてるんだったら嘘はつけないですよ。プレーに対して、人に対して、サポーターに対してごまかすことはできない。日本では少しミスをしても、みんなが『ドンマイ、ドンマイ』と言ってくれる風潮があるじゃないですか。

 それは日本人の優しい一面なのかもしれないですけど、やっぱりあれだけの観衆がいて、高いレベルのなかでごまかしたプレーや逃げたプレーをしていたら、それは嘘をついてることになりますよ。たぶん、それを感じたんじゃないかな。シャルケに行ってすぐのときは、そうじゃなかったのかもしれないけど、1年やって2年やって、チャンピオンズリーグにも出るようになって、『このなかではごまかせない』とわかって来たんだと思います」

――サッカーに詳しい観衆が、毎試合、目を光らせて見ているわけですしね。

「それもあるし、グラウンドのなかで体がでかくて速い奴が本気でぶつかってくる。あれだけの勢いで来るわけだから、それはごまかせないでしょ。グラウンドを離れてもメディアの厳しい目もあるし、ちょっとミスをすれば交代になってしまう。みんなが本気ですよ。

 余談だけど、観に行ったのは去年のシャルケ対シュツットガルトの試合で3-1でシャルケが勝ったゲームでした。当時、シュツットガルトにいた岡崎が得点を決めたので、両方の良いところが見れた試合でした。試合後、スタジアムの中にサロンみたいなのがあって、サポーターのなかでもコアなソシオみたいな人が集まるところがあるんですけど、そこであっちゃんともう一人が、試合が終わってすぐ、トークショーみたいなことをやっていたんです。その場にはスポンサー関連の人もいたと思うんですけど、そういう人たちへの対応を見てると大人になったな、と思いましたよね。

 そのあとも、スタジアムから駐車場に行くまでの間にサポーターがワーッと来て、『ウッシー、サインをしてくれ!』と来れば、サインもするし写真も撮るし。まあ、日本にいたときもサインを書くには書いてたかもしれないけどブスッとしてね(笑)。そういうところも含めて大人になってました。ドイツでずっと一人でやってるわけだし、タフになりますよね。精神的にもタフになる」

――日本代表のなかでもタフさはトップクラスに感じます。

「最近のあっちゃんは良いと思うんだけど、もっと良くなって欲しいんですよ。もっとやれると思う。代表に行くと気を遣いすぎてる感じがするんですよね。この間のオランダ戦の2点目なんかはサイドを駆け上がっていったけど、あれをずっとやっていれば相手は攻められないですよ。

 そこで、イニシアチブを握るのがあっちゃんのプレーだと思うんですよね。ただ、器用にいろんなことができちゃうから、ちょっと気を遣いすぎてるように見える。もちろんドイツであれだけの経験を積んで、日本代表チームのなかでもサポートしなければいけない立ち位置にいるのはわかるけれど、もっと思い切って上がって欲しいですね」

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