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実はPR戦略だったアウベスの“バナナを食べる”ジェスチャー。マーケティング会社が反差別へ込めた意図とは?

text by 永田到 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

筆者が体験した人種差別

 筆者自身、イギリスで人種差別的行為に直面したことがある。ロンドンに向かうためにリバプールのターミナル駅から電車に乗ろうとすると、乗車口で駅員が割って入り、何のいわれもなく乗車を邪魔してくる。

 明らかな悪意を感じたために、その駅員の身体を半ば強引に押しのけて乗車しようとすると、「お前の方から身体にぶつかってきたな」と不敵な笑みと共に駅員がつぶやく。すぐさま駅構内にアナウンスが流れ、直後に鉄道警察官が現れて事情聴取を受ける羽目になった。

 約10分の押し問答を経て警察官が唐突に放ったセリフが「1時間後に来る次の電車に乗るなら解放してやる」。思わず「次の電車に何の問題もなく乗車出来るなら、そもそも乗車拒否する必然性もなかったはずだろう。からかい以外の何物でもないじゃないか」と声を荒げそうになった。

 しかし溢れる感情をグッとこらえて、無言で次の電車に乗り込むことにした。もしこれ以上何か発言すれば、警察官の気まぐれでそれ以上の不利益を被る、つまり身柄拘束されそうな気配だったからだ。警察官に連れて行かれる際、ニヤついた表情でこちらを見る駅員は、まさに人種差別主義者が見せる顔つきそのものだった。

 どれだけ不当な扱いを受けても、差別されている立場の人間にとって、それを適切に訴えられる方法は極めて限定されている。体中に込み上げる怒りを消化するには、その後何日も要した。

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