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なぜ1番・2番ではなく3番が歌われるのか? W杯決勝前に知っておきたいドイツ国歌の謎

text by いとうやまね photo by Getty Images

祖国統一への思い

 現在の歌詞は、ハイドンが作曲してから半世紀経った、1841年に作られた。作詞者は、ホフマン・フォン・ファラースレーベン。詩人であり、大学教授でもあった人物だ。当時、ドイツは中小の領邦国家に分裂しており、ドイツ統一への機運が高まっていた。

 詩は3番まであり、現在はその中の3番のみが採用されている。聴きどころの一つ目は、冒頭の「団結と正義と自由(アイニッヒカイト ウント レヒト ウント フライハイト)」だ。「団結(Einigkeit)」は「統一」と訳すべきかもしれない。

 分裂状態にあったドイツの統一を願った詩と解釈できる。このフレーズは、曲中に二回登場する。この歌のテーマと言っていい。歌詞のベースには、祖国統一への思いが流れているのだ。

 二つ目の聴きどころは、曲の最初と最後に出てくる「父なる国(ファーターラント)」だろうか。日本では国のことを母親になぞらえて「母国」と呼ぶが、ドイツでは父親に喩える。そう言えば、ライン川もドイツ人は父親になぞらえて、「父なるライン(ファーターライン)」と呼ぶ。

 ちなみに、ドイツ語には「Mutterland(母なる国)」という言葉もある。ただしこの場合は、ちょっとニュアンスが異なってくる。植民地に対しての宗主国を指す。ファーターラント=祖国、ムッターラント=本国といった感覚だろうか。団結を訴える力強い歌詞と、流麗なメロディーとの対比が見事な名曲だ。

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