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岡野俊一郎と金子勝彦が語る日本サッカー(その2)TV中継で誤用が多い「ゴールマウス」と「ボランチ」

text by 藤江直人 photo by editorial staff

「ボランチ」は役割であってポジションではない

岡野俊一郎と金子勝彦が語る日本サッカー(その2)TV中継で誤用が多い「ゴールマウス」と「ボランチ」
岡野俊一郎氏と金子勝彦氏【写真:編集部】

岡野 これは日本サッカー協会にも問題があるのだけれども、ボランチというポルトガル語をポジションの意味で普通に使う。ボランチとは役割を指すのであって、決してポジションではない。FIFAの公式記録を見れば一目瞭然です。サッカーにおけるポジションはGK、DF、MF、FWの4つしかないんです。

金子 外来語の使い方に対する岡野さんの教えもあって、僕は実況の中でボランチという言葉を使ったことがないんです。それが、いまやNHKでさえ「ダブルボランチの一角は遠藤ですか、長谷部ですか」と現地に聞いたりしている。ダブルとは英語であり、ポルトガル語とくっつけて使うのは極めて無理がある。

岡野 どうしても使うというならば、ダブルではなくドイスだね(笑)。

――「舵取り役」や「ハンドル」を意味するボランチという言葉は、1993年のJリーグ創設以降に来日したブラジル人選手が広く浸透させたと言われています。

岡野 役割を表わす言葉として、ボランチという語を使うこと自体はいいんです。ただし、専門家が誤用してはいけない。先ほどのゴールマウスにしても、初めて見聞きした直後に僕はイギリス人の旧知のサッカー記者に「意味を教えて欲しい」と連絡を入れました。

 解説者である以上、新しい言葉が日本に入ってきたら喜んで使うのではなく、正しい言葉として広くサッカーファンに伝えていかなければならない。

【その3につづく】

プロフィール

岡野俊一郎(おかの・しゅんいちろう)
1931年8月28日、東京都生まれ。東京大学卒業。1955年日本代表選手を経て、1961年日本ユース代表監督に就任。1964年東京五輪、1968年メキシコ五輪ではコーチとして参加し、メキシコ大会では銅メダルを獲得。1970~1971年には日本代表監督を務めた。1960~1990年、NHK、テレビ東京「ダイヤモンド・サッカー」の解説者として低迷期の日本サッカーを陰で支える。1965年、日本サッカーリーグの創設に関わり、1993年Jリーグの理事。また、日本サッカー協会では、理事、副会長として2002年FIFAW杯招致に尽力。1998年会長に就任し、大会を成功に導いた。FIFAでは、W杯組織委員会委員、オリンピックトーナメント組織委員会委員。また東アジアサッカー連盟初代会長を務めた。

金子勝彦(かねこ・かつひこ)
1934年8月30日、神奈川県生まれ。中央大学を卒業後、大阪毎日放送を経て、東京12チャンネル(現テレビ東京)に入社。1968年にスタートした「三菱ダイヤモンド・サッカー」などを担当し、40年以上にわたりサッカー中継の実況をつとめた「サッカー実況アナウンサー」の草分け。「サッカーを愛する皆さん、ご機嫌いかがでしょうか」のフレーズで始まる「三菱ダイヤモンド・サッカー」は、当時、情報量の少なかった海外サッカーを紹介する「世界への窓」ともいえる唯一のテレビ番組であった。1974年には、日本史上初めてFIFAW杯が衛星生中継された西ドイツ大会の決勝戦を実況した。テレビ東京退社後も、フリーランスアナウンサーとして活躍。民間放送や衛星放送で、今も現役アナウンサーとして英プレミアリーグ等を担当。2002年Jリーグ特別功労賞受賞。2012年第9回日本サッカー殿堂入り。

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