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Jリーグ 10年前

“雑草軍団”松本山雅、初のJ1へ。緻密な指揮官・反町康治、サッカー不毛の地で埋もれた才能を再生

text by 元川悦子 photo by Getty Images

大きな影響を与えた田中隼磨の存在

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日本代表経験のある地元・松本出身の田中隼磨が加入【写真:Getty Images】

 今季J1で優勝争いを演じているガンバ大阪と2013年9月にホームで対戦した際にも、開始早々には岩上の右CKから塩沢がニアサイドの角度のないところから1点を叩き出したが、これなどはまさに分析の賜物だ。

「セットプレーは一夜漬けみたいなところがあるよね。次の相手はこうだからこういう形でトライしてみようとかね。ガンバのヤット(遠藤保仁)なんかはパッとボールを置いて2~3歩下がるうちにどこが空いているか見ている。ウチの選手はそういうことができないから練習しているんだ。

 実際、ウチはボールポゼッションでは全試合で負けている。パスの本数もダントツでビリだ。数字で上位に入っているのはシュート数とクロスの数くらい。

 湘南の時はクロスに頼らないチーム作りをしていたけど、このチームにはヘディングが強い選手とか、サイドで長い距離走れてクロスを上げられる選手がいるから、そういう特徴を大事にしているんだ」と反町監督は選手個々の特性を最大限引き出す戦い方を研ぎ澄ませて行った。

 2013年終盤はヴィッセル神戸に大量7失点を喫し、最終的にプレーオフに得失点差で届かなかったが、最後の追い上げは次のシーズンの飛躍の大きな手ごたえを感じさせた。

 迎えた勝負の今季。岩間雄大やサビア、大久保裕樹といったJ2で実績ある選手に加え、日本代表経験のある地元・松本出身の田中隼磨が加入。2011年8月に急逝した松田直樹の背負っていた3番を引き継いだ男の存在はチーム全体に非常に大きな意味もたらした。

「隼磨は練習1つ取っても志が高い。ハイパフォーマンスの土台にあるのが人間性だ。それは海外で活躍している圭佑や真司にも言えることだ。J1からJ2にカテゴリーを落とすと下部リーグを軽視する選手も少なくないけど、生き残るのは相当な覚悟がいる。隼磨にはその覚悟がある。

 ピッチ上でワンちゃん(犬飼)が軽いプレーをしたりしても、隼磨がよく怒っている。そういうのを見ても影響力があるなと思うよ」と反町監督も敬意を評していた。

 山雅の合宿の厳しさに新加入選手のほとんどがシーズン前にリタイアしたのに、隼磨だけはびくともしなかったというから、その強靭な肉体とメンタリティがよく理解できるだろう。

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