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Jリーグ 9年前

「オレンジ」がJ2に落ちる日。断崖絶壁の清水で大榎監督は活路を見出したのか?

text by 田中芳樹 photo by Getty Images

もはや攻めるのみ

「失点を減らすためにやってきたが、それが逆にネガティブになってしまった」(大榎監督)

 ゴトビ監督時代に植え付けられたように、選手たちは指示されたことを遂行する能力には長けている。しかし、いざ自主性を求められると、混乱してしまう傾向が顕著だった。守備的な形を取りながらも、臨機応変に対応してもらいたいという指揮官の意図はなかなか選手たちに伝わらなかった。

 それを受けた、大榎監督は決断を下す。狙ったのは「相手の良さを消す」のではなく、「自分たちの良さを出す」こと。馴染みのある4バックに戻し、本田拓也をアンカーに据えたシステムで前面に押し出し、試合を支配することを狙い、またそれができるようにもなっていった。残留争いの直接対決となる第27節・C大阪戦でようやく勝利を得ると、続く天皇杯準々決勝・名古屋戦もPK戦の末に勝利を収め、公式戦2連勝。清水は徐々に「勝てるチーム」に変貌しつつあった。

 ただ、この流れは「自分たちの良さ」を見せられない試合は、あっさりと負けてしまうことと表裏一体だった。これは前節・柏戦は天皇杯準決勝が間に挟まっており、「練習を抑え過ぎた」(大榎監督)と、動きにキレが見られなかったのも一因だった。現在のスタイルは絶対的な運動量が求められるため、コンディション面の良し悪しが勝敗へ直結する傾向も明確なのだ。大榎監督としては、また新たな課題を突き付けられることになった。

 大敗からスタートした5ヶ月間。失敗から多くを学んだチームは着実に成長を遂げている。前節の失敗も含めて力に変えるしかない。さらに大宮が名古屋に後半アディショナルタイムに失点して敗北を喫するなど「サッカーの神様にチャンスをもらった」という運も味方につけている。

「選手たちには、ここにすべてを懸けるように言った」。

 泣いても笑っても、これが最終節。ただ、感動で泣くのも、安堵で笑顔を見せるのも、試合が終わってから。清水はホームで、自らの手で残留をつかみ取る。

【了】

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