フットボールチャンネル

「私にとってポゼッションはライバルを快適にするもの」。闘将シメオネが語るフットボールの深淵

4月6日発売の『欧州フットボール批評issue02』(カンゼン)では「司令塔はどこにいる? 戦術に“違い”を創り出す男たちの新たな居場所」と題した特集内で、カナル・プルス(スペイン)で今年1月に放送され話題になったアトレティコ・マドリーの指揮官シメオネのロングインタビュー(聞き手:グスタボ・ロペス、フリオ・マルドナード“マルディーニ”)を翻訳・編集して掲載している。一部抜粋して紹介する。

text by 江間慎一郎 photo by Getty Images

自分はチームに生命が宿ると信じている

「私にとってポゼッションはライバルを快適にするもの」。闘将シメオネが語るフットボールの深淵
競争に臨む姿勢をチームに植え付けることを何よりも重んじているシメオネ【写真:Getty Images】

グスタボ・ロペス(以下G) とにかく、アトレティコのコーチ陣には驚かされたよ。チョロ、ヘルマン(・ブルゴス、助監督)、プロフェ(オスカール・オルテゴ、フィジカルコーチ)と、彼らの選手たちを再生させる、覚悟を植え付けられるキャパシティーにね。現役時代の自分であれば、「チームの重要な選手たちがここから去っていった。最もスピードのあるセンターフォワード、勝ち点10を守ったゴールキーパー……。これから、一体どうすればいい?」と考えていたはずだ。しかしながら、チョロはそんなチームに強靭なメンタリティーを備えさせている。選手たちが去り、また異なった個性を持つ選手たちが加わりながらも、変わらずにモチベーションを与え続けているんだよ。それこそが監督のベースとなる仕事だ。

シメオネ(以下S) 今季は大きな挑戦に臨んでいると思う。昨季に比類できないことを成し遂げたのは明白だからね。だが、10人もの選手が加入することには興奮も覚える。それぞれ性格の異なる人間が、少しずつチームの一員と自覚していく様には、そう感じるものなんだ。時は流れ続けるもの……。もちろんだ。そして、その流れの中でアントワーヌ・グリーズマンはこのチームに惹きつけられ、マリオ・マンジュキッチは生命とも称せるフィロソフィーの一部となった。そう、自分はチームに生命が宿ると信じている。生命とは何か? 試合への臨み方にほかならない。それはプレーの良し悪し以前に、同じような意識を持つ選手たちが増えることで生じるものだ。アトレティコは基本的に全員が素晴らしい形で試合に臨んでいる。それは勝利のために良いプレーを見せるということではなく、競争に臨む姿勢や情熱を伝えることだ。実際、私は試合の臨み方という点で、似たような選手たちを擁している。マンジュキッチ、ラウール・ガルシア、サウール・ニゲス、チアゴ・メンデス、ディエゴ・ゴディン、ミランダ、ホセ・ヒメネス、フアンフラン……。彼らの顔つきやプレーを見れば、全員が似たようなタイプだと分かるはずだよ。

 選手は悪いプレーを見せることもある。例えば今季のアスレティック・ビルバオ戦(前半を0-1で終え、後半に4点を決めて逆転勝利)の前半がそうだったが、別に問題ではなかった。前半を終えた後、2つのことを話してから、再び競争に臨む姿勢を見ることができたからね。それは彼らが競争を好む選手たちだからだ。チーム内で、そのような選手たちを25人抱えることはないが、16人か14人ほどいれば……。ほら、ラウール・ガルシアのことを考えてくれよ。スペイン・スーパーカップのバルセロナ戦、監督ディエゴ・シメオネは彼を招集外とした。そして次の日、朝8時から練習に取り組んでいたのがラウールだった。彼がその後に代表チームに招集されたことは、決して偶然の産物ではない。ラウールは競争心のある選手で、それをグループに伝染させられるんだ。全員が同じように考えるわけではないし、中には「自分は出場機会を必要としていて、20試合に出場できて14位で終えるチームに行くことを望む」と言い放つ選手だっている。そのような選手も、個人的には評価する。が、コレクティブな面を考えれば良いものではない。受け入れられる考え方ではあるし、すべてのチームにそういう選手がいるものだ。ただ競争に臨むことにおいて、そういったタイプは少ない方が望ましい。

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top