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「劣っていると認められることこそが、我々の長所となる」。闘将シメオネのフットボール観【中編】

シリーズ:闘将シメオネのフットボール観 text by 江間慎一郎 photo by Getty Images

「マッチポイントを握った選手は、サーブを打たなくてはならない」

ディエゴ・シメオネ
2013-14シーズンの優勝は、カンプ・ノウで行われた最終節バルセロナ戦で決めた【写真:Getty Images】

G 昨季(2013-14シーズン)のリーガ優勝は最終節バルセロナ戦、それもカンプ・ノウという舞台で決めたけど、その一戦を前にどうやって選手たちを勇気付けた?

S 第35節バレンシア戦の4日前に行われた試合で、選手たちと話をした。おそらくエルチェ戦だったと思う。彼らにはこう語りかけたよ。

「気を付けろ。今が一番危険な時期だ。『ここまで全力を振り絞って努力してきたんだ。そうやって努力してきたことで、リーグタイトルは自ずと我々のもとに引き寄せられる』。お前たちはそう考えているはずだ。だが車輪が木の枝を巻き込んで、前へ進めなくなるときが必ず訪れる。我々の手で優勝争いの決着をつけなければならない」とね。

 それはテニスのマッチポイントと一緒だ。マッチポイントを握った選手は、勝負を決めるためにサーブを打たなくてはならない。

 優勝に近づけば、もう1つ余計な緊張が生まれてしまう。リーグタイトルを手にした瞬間、それをどのように祝うか、その後にどんなことが待ち受けているのか、と色めき立ってね。だが、そうやって膨らむ想像は、優勝しなければ絶対に起こり得ないことなんだよ。

 重要なのは父親、妻、恋人、子供、兄弟、友人ら、「もう大丈夫、大丈夫だ。マドリーはもう無理だし、バルサも死んでいる。マラガ、レバンテとの試合なんて楽勝だ」などと語りかけてくる周囲の人々から、どのように遠ざかるか、だ。そのような意見はまったくの嘘であり、フットボールにおいてはトラップとなり得る。だからこそフットボールは面白いんだけどね。

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