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日本代表 8年前

オシムJ、「日本化」の枠を超えていた野心。格上の相手をも圧倒しうる、リスク冒す戦い【西部の4-4-2戦術アナライズ】

シリーズ:西部の4-4-2戦術アナライズ text by 西部謙司 photo by Getty Images

「水を運ぶ人」と「マイスター」

2007年のアジアカップで起用された3人のマイスター。中村憲剛(左)、中村俊輔(中央)、遠藤保仁(右)
2007年のアジアカップで起用された3人のマイスター。中村憲剛(左)、中村俊輔(中央)、遠藤保仁(右)【写真:Getty Images】

「水を運ぶ人」という表現もよく使われていた。いわゆるハードワーカーである。では、その対義語は何か。水を撒く人でも飲む人でもなく、「マイスター」になる。ヨーロッパの徒弟制度におけるマイスターは、例えば煉瓦職人なら煉瓦を積む人だ。

 煉瓦を積むために必要な水を運ぶ仕事をマイスターはやらない。マイスターは特殊技能者であり、ピクシーや中村俊輔はそれにあたる。マイスター(=エキストラキッカー)を何人まで起用するかは、おそらく相手との力関係で決めるつもりだったと思う。

 アジアカップでは3人だったが、もっと相手が強ければハードワーカーを増やしたのではないか。ただ、実際に3人を同時起用していたのだから、オシム監督自身「リスクを冒す」タイプといえる。

 07年アジアカップでは、マイスター3人の併用に踏み切ったのと関連して、ゾーンの4バックを採用した。とはいえ、実際には2バック+アンカーで相手のカウンターに備えるという戦い方である。

 考えて走る、水を運ぶ人とマイスター。その関係がわかりやすく表れていた例として、オーバーラップがある。

 右サイドで中村俊輔がボールをキープしたときには、右SB加地亮が中村の背後を追い越していく。このとき相手は縦にマークをスライドさせる。中村と対峙していたSBはオーバーラップする加地をマークし、加地を追ってきた選手は中村をマークする。

 すると、守備側は下がったSBに合わせてラインを再設定することになる。SBと同じか、それよりも低い位置へ下がる。ディフェンスラインを下げさせることで、その手前のスペースをマイスターに使わせることができる。SBのハードワークによって、マイスターが技術を発揮する条件を作るわけだ。

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