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日本代表 8年前

オシムJ、「日本化」の枠を超えていた野心。格上の相手をも圧倒しうる、リスク冒す戦い【西部の4-4-2戦術アナライズ】

シリーズ:西部の4-4-2戦術アナライズ text by 西部謙司 photo by Getty Images

リスクを知ったうえで踏み出す

オシム監督のチームでは運動量が求められるが、ドラガン・ストイコビッチなど「エキストラキッカー」も重宝された
オシム監督のチームでは運動量が求められるが、ドラガン・ストイコビッチなど「エキストラキッカー」も重宝された【写真:Getty Images】

 オシムのサッカーでリスク管理が決定的に重要なのは、その戦い方自体がリスキーだからだ。

 サッカーはバランスのゲームである。しかし、ときにバランスは失われる。同点のままロスタイムに入り、どちらのチームも引き分けを望まなければ、雌雄を決するノーガードの打ち合いになることがある。

 どちらも攻撃に人数を割き、どちらもカウンターに無防備、90分間で作ったチャンスの数を上回る決定機がロスタイムに作られたりする。オシムの戦術は、このオープンな状態をある程度容認する。この時点でリスキーだ。

 マンマークのハイプレスは、それが外されたときに一時的な総退却を余儀なくされる。もう一度防御ラインを設定し直して守備を立て直すわけだが、カウンターアタック直撃の危険は排除できない。

 一方、ハイプレスがはまれば相手のビルドアップごと破壊できる。再設定した防御でボールを奪えればカウンターのカウンターもできる。構造的に乱戦指向なのだが、それをたんなるノーガードにしないためのリスク管理がカギになるわけだ。

 オシム監督は「リスクを冒せ」とよく話していた。リスクは知らなければならない、無謀ではいけない、しかしリスクを知ったうえで一歩踏み出すことを要求していた。

 90年ワールドカップの緒戦(西ドイツ戦)は、あえてオールスターで編成して「わざと負けた」とも言われている。日本でも「エキストラキッカーは1人か2人」と言っていた。

 しかし、ユーゴスラビアは準々決勝のアルゼンチン戦にドラガン・ストイコビッチ、サフェト・スシッチ、ロベルト・プロシネツキの3人を起用している。アジアカップでは遠藤、中村俊輔、中村憲剛を使った。彼らは走るチームをコントロールする頭脳で、守備ではリスクかもしれないが攻撃のリスク管理ができる。正しく攻撃することで守備のリスクを相殺するわけだ。

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