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麻薬王と悲劇のDF。南米王者アトレティコ・ナシオナルと絡み合う2人のエスコバル

text by 北澤豊雄 photo by Toyoo Kitazawa , Getty Images

麻薬王が寵愛したイギータ。中流階級出身だったエスコバル

レネ・イギータ
当時のアトレティコ・ナシオナルの象徴的存在、レネ・イギータ【写真:Getty Images】

 アトレティコ・ナシオナルは前出のエルナン・ボテロが逮捕されたのちの1989年、ヨーロッパの「チャンピオンズリーグ(CL)」に相当する「コパ・リベルタドーレス」(南米クラブ選手権)をコロンビア勢としては初めて制し、「トヨタカップ(現、クラブW杯)」への出場を決めた。決勝戦で当時世界最強と言われたACミランに敗れたものの、好勝負を演じて世界のサッカーファンを唸らせている。

 だが、この頃のアトレティコ・ナシオナルの最大スポンサーであり事実上のオーナーこそが、世界の麻薬王パブロ・エスコバルであったと言われている。あたかもエルナン・ボテロの空白を埋めるかのようにクラブを支配し、麻薬マネーで選手を買い、審判を買収することをいとわなかった。チームの選手を豪華な自宅に招き、贔屓の選手を可愛がった。

 その中の1人が、当時のアトレティコ・ナシオナルの象徴的存在、レネ・イギータだった。長髪に髭という風貌にくわえて、ゴールキーパーであるにもかかわらず敵陣にドリブルで攻め込み、センタリングまで上げる。イギータはのちに麻薬にも手を染め服役中のパブロ・エスコバルにも面会に行く問題児であったが、選手としての人気は高かった。

 そして、もう1人の看板選手が、センターバックとして活躍したアンドレス・エスコバルだった。奇しくも麻薬王と同じ名を持つ男はしかし、イギータを始めとした荒くれものが多かった当時のコロンビアの選手とは一線を画していた。中流階級の出身で理知的な男は選手やファンからの信頼も厚く、コロンビアA代表でも中心選手となっていく。だが、そんな彼に悲劇が待ち受けていた。

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