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久保裕也のベルギー移籍はステップアップなのか? クラブ史上最高額の移籍金が表す期待

text by 編集部 photo by Getty Images

久保裕也
久保裕也【写真:Getty Images】

「我々にとって最も高価な移籍だったことを否定はできない」

 ベルギー1部KAAヘントのミシェル・ロワーギーTD(テクニカルディレクター)は、久保裕也の入団会見でクラブ史上最高額の移籍金を支払って獲得した日本代表FWへの期待を語った。

 ベルギー紙『ドゥ・モルゲン』などが伝えた記者会見の模様からは、久保に対する信頼と期待の大きさが伝わってくる。では、選手側から見てスイスからベルギーへの移籍が“ステップアップ”と言えるのだろうか。

 欧州サッカー連盟(UEFA)が発表している最新のカントリーランキングで比較すると、ヘントが本拠地を置くベルギーは9位、久保が所属していたヤングボーイズが属するスイスは12位につけている。このランキングはチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)に出場できるクラブ数の基準にもなるが、両国に大きな差はない。

 また、CLやELの結果によって変動するUEFAチームランキングで比較しても、ヤングボーイズからヘントへの移籍は68位から65位のクラブへ、わずかに階段を上がったようにしか見えない。

 ところが、所属する選手の市場価値を比較するとクラブの規模が全く違うことがわかってくる。選手情報データベースサイト『transfermarkt』によれば、ヤングボーイズ全所属選手の市場価値総額は「3515万ユーロ(約43億円)」なのに対し、ヘントは「5640万ユーロ(約69億円)」となっている。単純計算で1.5倍ほど大きなクラブということになるだろう。

 また、両クラブが近年ヨーロッパのカップ戦で残してきた実績も久保の移籍を後押ししたかもしれない。過去3年間でヤングボーイズはCL予選の壁を越えられず、ELにしか出場できていない。一方で、2シーズン前に国内リーグを制したヘントは、昨季CLに出場してベスト16まで勝ち進む堂々の戦いを見せた。将来的に再びCLに出場できる可能性も十分にある。

 久保自身の立場の変化も顕著だ。ヤングボーイズは2013年当時、久保の将来性を見込んで京都サンガF.C.から引き抜いた。移籍当初はほとんどが途中出場で、7試合、14試合、23試合と年を重ねるごとに競争を勝ち抜いて先発出場の機会を増やしていった。

 だが、今回のヘント移籍はクラブ史上最高額の移籍金だったことからも分かる通り、即戦力として結果が求められている。ロワーギーTDが「昨年の夏に最初の交渉があった」と語っており、ヘントの補強選手として優先順位は高かったと言えそうだ。

 ヘントのイバン・デ・ヴィッテ会長は「スポーツ以外、あるいはコマーシャル目的ではない。久保の獲得は純粋にスポーツ面のみでオファーした」と明かした。将来性を評価され数年後を見越して獲得されるのか、即戦力として請われて獲得されるのかではクラブ内での待遇や立ち位置に大きな違いがあるだろう。

 機械的に計算された数字だけで物事を推し量ることはできない。だが、久保がヨーロッパでステップアップしたのかと問われれば、ヘント移籍は間違いなくステップアップと言えるだけの材料が揃っている。

【了】

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