フットボールチャンネル

ボスマン判決の功罪。移動の自由獲得と自国選手の減少。サッカー界に侵入した過激なほどの自由主義【特集:ボスマン判決、20年後の風景】

シリーズ:ボスマン判決、20年後の風景 text by マリオ・オルナト photo by Gabriela Hengeveld,Archivo,Getty Images

スポーツの論理は、過激なほどの自由主義と共存するように

 フットボールの市場はここに来て、また新たな局面を迎えている。

「保有権は投資ファンドによって補われ、選手たちを所有するのはクラブではなく金を儲ける組織となった。その一方でクラブは、より長期的な契約を選手たちと結んでいる」(編注:2017年1月現在のFIFA規約では、選手を保有するのはあくまでクラブと定められている)

 ペトンがそう論証するように、フットボールがボスマン判決をさも当たり前のものとして、そこからさらに商業化を進めていったのは明白だ。もちろん代理人もそのシステムの一部であり、そこではスター格として煌めく。当たり前とされていたスポーツの論理は、過激な程の自由主義と共存するようになったのだった。

「クラブにとって、今は下部組織を持つより外から選手を引っ張ってくる方が魅力的だ。下部組織など利益にならないからね」。ガルシア・サンフアンは、そのような現状を強く咎める。

 疑問をさらに広げるとして、ボスマン判決の恩恵を最も受けているのは選手、代理人のどちらなのだろうか。ぺトンが答える。

「代理人はより多くの金を手にするようになったか? しっかり働けば、そうだろうよ。現状は店を持っているとして、その営業時間が延びたといったところだ。我々バイーアはスペイン人の代理人業に特化することを決めていた。彼らが最高の選手たちという理解があったためだが、時間がそれを証明した」

 だがぺトン、そしてレンドイロも、最も恩恵を受けているのが「選手たち」と断じることをためらわない。「以前にはプレーできなかったピッチ、手にできなかった機会が眼前に現れたわけだ。最初こそ不満を漏らしていたが、市場に出ている今の選手たちは良いものとみなしているだろうよ」

 レンドイロがそう話し、ぺトンも同意した。

 ボスマン判決から20年が経ったが、その途方もない影響は徐々に整理されているのか、あるいは増大しているのか。いずれにしろ新たなメカニズム、はたまた新たな難題を生み出しているそれは、フットボールという風景の一部になっている。

 レンドイロは予言する。選手が一般の労働者のように、退職を申し込むことでクラブから去れる未来を。たとえ騒ぎになろうとも、予言は的中するに違いない。古くからのファンは落ち着きなく身体を揺らし、若者はごく自然にそれを受け入れるはずだ。そしてそのほかは、自覚なきボスマンの申し子たちであるだけだろう。

 彼らはユーロをペセタになど換算せず、イングランド人のいないアーセナルをおかしく感じることもない。過去に生きた試しはなく、奇妙な感覚など持ちえないのだ。それに……、スペインだってワールドカップで優勝してしまったのである。

(取材・文:マリオ・オルナト【スペイン】、翻訳:江間慎一郎)

【了】

1 2 3 4 5 6

KANZENからのお知らせ

scroll top