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Jリーグ 7年前

J3藤枝、J初のカンボジア人選手獲得に秘める狙い。“国民的スター”とともに見据える東南アジア戦略

text by 宇佐美淳 photo by Getty Images

東南アジア戦略において欠かせないピッチでの輝き

グエン・コン・フオン
“ベトナムのメッシ”こと同国代表FWグエン・コン・フオン【写真:Getty Images】

 昨年、J2水戸ホーリーホックが“ベトナムのメッシ”こと同国代表FWグエン・コン・フオンを期限付き移籍で獲得したときは、国営ベトナム航空(VNA)が新たにスポンサーにつき、商業面での成功が話題となった。このほか、スタジアムに在日ベトナム人を招待したり、VNAが運航したチャーター便でベトナムからツアー客を呼び込んだりするなど、インバウンド需要を狙ったマーケティングを展開した水戸はアジア戦略を次なるステップに進めた。

 藤枝の場合、水戸と同様の戦略を採ることは難しいだろう。2015年末の統計によると、在日カンボジア人は約6100人で、在日ベトナム人の14万7000人を大きく下回る。ASEAN諸国の中でも経済後進国であるカンボジアからツアー客を連れてくることも現実的ではないため、当面はカンボジアにおけるクラブ知名度の向上とファン獲得に努め、将来的な現地でのサッカースクール事業展開に向けて準備を進めていくことになりそうだ。

 カンボジアは、1970年代後半の旧ポル・ポト政権下による弾圧で医師や教師などの知識階級がことごとく虐殺されたという歴史背景がある。日本のクラブによるサッカーを通じた人間形成・教育は、カンボジアの未来を担う子供たちを育てることにもつながり、社会貢献としての意味も大きい。

 大きな可能性を秘めているアジア戦略だが、Jリーグが目標に掲げるような“アジアのプレミアリーグ化”を現実にするためには、やはり彼らがJのピッチで輝きを放つ必要がある。これまでにJクラブに在籍した東南アジア選手のうち、ピッチである程度の結果を残したのは、元ベトナム代表レ・コン・ビン(元札幌)ぐらいで、その後に続いたインドネシアやベトナムの選手たちは殆ど試合に出場することなく帰国していった。

 先日行われたJ3の開幕戦で、藤枝は奇しくもタイ人初のJリーガーであるU-19同国代表FWシティチョーク・パソ(通称ヤー)がいる鹿児島ユナイテッドと激突。この試合はFacebookを通じて海外向けに生中継されたが、ワタナカはベンチ外、シティチョークはベンチ入りしたものの出場はなく、残念ながら両選手のデビュー戦は次節以降にお預けとなった。

 百戦錬磨の英雄レ・コン・ビンは、以前のインタビューで海外で成功する秘訣に「2倍の努力と強い精神力」を挙げた。若手にそれらを望むのはやや酷かもしれないが、2人のJ挑戦はまだ始まったばかり。焦らずに、じっくりと調子を上げて、やがて巡ってくるであろうチャンスに備えてほしい。

(文:宇佐美淳【ホーチミン】)

【了】

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