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吉田麻也、黒子に徹する“統率力”。サウサンプトンのDFリーダー、プレミア5年目の覚悟か【東本貢司の眼識】

シリーズ:東本貢司の眼識 text by 東本貢司 photo by Getty Images

先輩として示した模範。感じ取れる前向きな覚悟

トニー・アダムズ
アーセナル往年の名CB、トニー・アダムズ【写真:Getty Images】

 ふと、かつてのアーセナルの、というよりもプレミアの“顔役”ディフェンダーとして鳴らしたトニー・アダムズのことを思い出す。無名のコロ・トゥーレをアフリカの“盟友”を通じて引き入れたアーセン・ヴェンゲルには確固たるヴィジョンがあった。

 イングランドにやってくるまでのコロの“本職”はミッドフィールドだったが、体型と性格からセンターバックで成功すると見ていたヴェンゲルにとって、キャリアの終焉に近いアダムズの公私における立ち居振る舞いが、コロの成功に大きく寄与すると見たのだった。

 その見立てはまんまと当たったのだが、その際、アダムズがコロや新参の未知数戦力(ヴィエラ、ラウレンら)のハートを打った、有名なエピソードがある。アダムズは彼らがまさに入団したばかりのとき、チームメイト全員の前でアルコール中毒で悩んでいることを告白したのである。

 そのとき、まだ英語がほとんど覚束ないヴィエラらは何のことかもよく分からず、しばらくしてその真相を知って驚き、かつ、このチームの結びつきの強さを思い知ったという。しかるべくして、アダムズの率直で妥協を許さないプレースタイルとその断固たる意志は、CB初体験のコロを目覚めさせ、精進に向かわせたのである。

 経験、佇まい、性格などの点で、吉田をアダムズと比べるのは恐れ多く、少なくとも筋違いだろう。だとしても、吉田は吉田なりに、先輩として何らかの範となる努力を怠るまいとしているのではないか。そこには、入団以来決して順風満帆とは言えなかった苦悩、内心の葛藤、このままでは終われないと奮起した反骨までうかがい知れ、自身のセインツキャリアについての前向きな覚悟のようなものまでも感じてしまう。

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