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ジダンが見せた勝負師としての真価。アトレティコに完勝、2度の布陣変更に込められた意味

text by 舩木渉 photo by Getty Images

左利きのアセンシオを起用した確かな理由

 バロンドール4度受賞の男は、ジダン監督の要求に最高の形で応えてみせた。10分の先制ゴールを皮切りにハットトリックでマドリーを勝利に導く。そこにはかつてのようなイケイケのドリブラーではなく、超一流のストライカーがいた。

 終始試合を支配していたマドリーだったが、ジダン監督は90分間で2度布陣変更を決断している。1度目は68分のマルコ・アセンシオ投入時、それまでの4-3-1-2から普段の4-3-3に戻した。だが、C・ロナウドは普段と逆の右サイドに配置され、アセンシオは左サイドに入った。

 この采配にはジダン監督の明確な意図が透けて見える。まず、アトレティコはこの時点で交代枠を2つ使い、フェルナンド・トーレスとニコ・ガイタンを投入していた。ディエゴ・シメオネ監督は1点ビハインドの状況でチーム全体の攻撃意識を高めてアウェイゴールを奪いに出た。

 マドリーのジダン監督はその交代策を見て、前がかりになったアトレティコの背後を鋭利な“ナイフ”で突き刺しにかかった。なぜアセンシオを送り出したかにもしっかりとした理由がある。

 アトレティコは守備陣にけが人が多く、ファンフラン、シメ・ヴルサリコ、ホセ・マリア・ヒメネスといった選手たちが不在だった。それにより本職の右サイドバックが1人もいなくなり、マドリー戦はやむなく左利きのリュカ・エルナンデスを右サイドに据えていた。

 普段ならば以上なまでの完成度を誇るアトレティコの守備陣にほころびが生じていた。左利きのリュカは、対面の選手が内側へカットインしていく動きについていくのは問題ないが、縦方向に仕掛けられると利き足とは逆の足で対応せねばならず、どうしても後手に回ってしまう。

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