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英国に蔓延する「殺人タックル」と「激しさ」の誤解。選手を負傷から守るために必要なこと

text by Kozo Matsuzawa / 松澤浩三 photo by Getty Images

「激しさ=暴力的」は誤解。過去にも数多の犠牲者が…

ラムジー
2010年、アーロン・ラムジーの右足はライアン・ショウクロスの危険なタックルを受けてあらぬ方向に曲がった。周囲の選手も頭を抱えて言葉を失う明らかな大怪我である【写真:Getty Images】

 シティのファンでさえも「ナイジェル・デ・ヨングは激しいタックルでボールを奪い、気づいたら相手が負傷していた。サッカーはスピーディーで激しいコンタクトのスポーツだから、仕方ない。できることは、審判がこういったチャレンジにどう対応するか。イエローカードを出したりして対応するしかない」と言っている者がいたくらいだ。

 しかし、これらの意見は「勇猛さや激しさ=暴力的なプレー」とはき違えていないだろうか。大衆紙『デイリー・ミラー』のスポーツエディター、ディビッド・ウォーカーが「凶悪傷害事件の攻撃のようだった」と形容していたが、シティ戦でのベネットの2つのタックルは、まさにそちらに近かったといえる。

 過去を振り返れば、2001年にマンチェスター・ユナイテッドの主将ロイ・キーンがマンチェスター・ダービーでシティで主将を務めていたアルフィー・ハーランドに悪質なタックルを食らわした。このプレーが原因でノルウェー代表DFのその後の選手生命は大きく短縮されてしまった。2008年、バーミンガム・シティのマーティン・テイラーがアーセナルのエドゥアルド・ダ・シルバの足首を踏みつけて完全に骨折させ、エドゥアルドはその後トップレベルに戻ることはなかった。

 2010年には、同じくアーセナルのアーロン・ラムジーがストークのライアン・ショウクロスからエドゥアルドと同じようなタックルを受け、各テレビ局がハイライトでその場面の映像を避けるほど酷い骨折を負った。ショウクロスのタックルは記憶に薄いのだが、キーンは後に自伝で「終わらせてやるつもりだった」と告白しているし、テイラーのタックルも故意だったのではないかという印象が今でも残っている。
 
 カーディフ対シティ戦の翌日、『I(アイ)』紙(高級紙のインディペンデントから派生し、その後ジョンストン・プレスに買収された)の電子版『inews』では、

「ニール・ウォーノックさん、悪いが昨日のはイングリッシュタックルとは言わない。これらこそが本当のイングリッシュタックルだ」

 という見出しで、ボビー・ムーアやソル・キャンベル、そしてジョン・テリーなどのタックルの場面を映像で紹介している。特にムーアの映像は1970年ワールドカップ、イングランド対ブラジル戦の総集編だ。見出しのとおり、まさにこれこそが熱くて激しい英国サッカーのタックルだと、見ていて嬉しくなった。映像の最後に出てくる、お互いを認め合ったムーアとペレが握手をしている場面が印象的だ。

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