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ヴェンゲル王朝の終焉。プレミアの新時代を切り開いた先駆者、在位22年の偉大な功績

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ヴェンゲルが切り開いた国際化への流れ

ヴェンゲル
ヴェンゲル監督(左)はティエリ・アンリ(右)ら多くの有望株をワールドクラスに育て上げた【写真:Getty Images】

 のちに名将として知られるようになるフランス人指揮官の存在が英国フットボールにもたらした影響はこれだけではない。リーグそのものの国際化もヴェンゲル就任前、ヴェンゲル就任後で語られることが多い。

 例えば「外国人監督」の数は彼の就任前後で大きく変わっている。ヴェンゲルがアーセナルへやってくる直前の1995/96シーズン終了時、プレミアリーグ20クラブのうち英国外出身の監督はウィンブルドンを率いるアイルランド人のジョー・キネアーだけだった。

 ヴェンゲルにとってのアーセナル1年目終了時、プレミアリーグの英国外出身監督はチェルシーの選手兼監督を務めていたオランダ人のルート・フリットと前述のキネアーを合わせ3人しかいなかった。

 ところが現在、英国外出身監督は20人中13人までに増えている。英国出身監督は7人しかおらず、内訳はイングランド人が4人、スコットランド人が2人、ウェールズ人が1人となっている。1990年代半ばまで「英国人」のプライドが大きな障壁となっていたが、ヴェンゲルがアーセナルの監督に就任したことで流れが変わった。

 急速に変化するプレミアリーグの荒波に揉まれながらも、呑まれることなく20年以上にわたって同じチームを率い続けているのは、もはやヴェンゲルをおいて他にいない。そして「英国人であること」よりも「出自を問わず優れた人物」を評価するよう、英国のフットボールにおける価値基準をも変えてしまった。

 選手の才能を見極める眼も超一流だった。ヴェンゲルがアーセナル行きにあたって獲得をリクエストしたのは、当時19歳のパトリック・ヴィエラだった。現在MLSのニューヨーク・シティFCで監督を務める長身のフランス人MFは、のちにアーセナルで3度のリーグ優勝と4度のFAカップ制覇に貢献することとなる。

 ヴィエラの他、ティエリ・アンリ、エマニュエル・プティ、アシュリー・コール、ロビン・ファン・ペルシ、セスク・ファブレガス、サミア・ナスリ、アーロン・ラムジーなどヴェンゲルが才能を見出してワールドクラスへと導いた若手選手たちは枚挙に暇がない。

 さらに英国外から才能ある若手を発掘する世界的なスカウト網の構築もヴェンゲルが他に先駆けて取り組んだ。特に母国フランスからプレミアリーグに選手が流れるコネクションを築き上げたのも彼である。

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