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アジア 6年前

助っ人アフリカ人の哀れな結末。ベトナムを騒がせた詐欺事件、選手とクラブが生み出す悪循環

text by 宇佐美淳 photo by Getty Images

事件の引き金となるアフリカの制度

 アフリカ人選手をVリーグクラブに紹介すること11年の代理人グエン・ミン・チャウ氏は、「アフリカ諸国では、多くの国の政府が銀行に対し、海外出稼ぎ労働者の口座情報の詳細管理を要求しており、これはサッカー選手も例外ではない。政府は、出稼ぎ労働者が海外でどれぐらいの収入を得ているか知りたがっており、もし高所得者を見つければ、政府は高額な社会保障費の支払いを請求したり、道路や学校、診療所の建設といった社会貢献を求めたりしてくる」と語った。

 こうした制度の存在は、アフリカ人選手たちにとって、後々の大きな問題の引き金になってくるとチャウ氏は語る。もし母国の政府と銀行から言われるままに支払った場合、所得の40%近くを持っていかれるため、選手たちは法律の抜け穴を流すようになるのだ。

 政府や銀行からの請求を逃れるため、アフリカ人選手がよく使う手段として、ベトナムで得た所得を母国にいる両親や兄弟、親戚などの複数の口座に細かく分けて管理する方法がある。選手らは、いつか帰国した際の生活費として預けておいたつもりが、ほとんどの場合、勝手に使われてなくなってしまうことが多い。

「例えば、ベカメックス・ビンズオンで活躍したアッバス(2014年・2015年のVリーグ最優秀外国人選手)は、母国セネガルで道路と診療所を建設するために数千ドルを投じたことがある。彼は恋人との結婚資金として5000ドルを兄に預けたこともあるが、兄はその金をギャンブルにつぎ込んで使い果たしてしまった。他のアフリカ人選手たちも大抵は同じよう目に遭っている。いくら給料が高くても、なくなるのはあっという間だ」とチャウ氏は続けた。

 アッバスは、ベカメックス・ビンズオン所属時の月給が1万ドル以上もあったが、2015年のベトナムカップ決勝で足首を骨折して以降、手術やリハビリなどで出費が続き、僅かな蓄えはすぐに底をついてしまった。ベトナムを去った後は、生活のため、知人にビザ手続きをしてもらって、アメリカの自動車製造工場で働かなくてはならなかった。

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