通訳を介してモチベーターの本領は発揮できるか?
だが、今年の4月に『キッカー』誌に対して、ドイツ代表が「(ロシア・ワールドカップで)優勝候補ではあるが最優勝候補ではない」と語ったその理由を鑑みるに、やはり依然として「モチベーター」としての側面が強いようだ。
「もう一度(優勝したブラジル大会と)同じようなハングリーさを呼び起こす必要があるが、それはとてつもなく難しい。私は1994年と1998年のワールドカップを経験した。その2つの大会で私たちはハングリーだったが、(優勝した)1990年以上ではなかった」
現役時代は西ドイツ代表の一員として、90年のイタリア大会で優勝したクリンスマン氏。続く94年のアメリカ大会と98年のフランス大会では、再び頂点への飢えを取り戻すことは難しかったという。そしてそれはロシア大会に臨むドイツ代表にも当てはまると語るが、こうした「感情面」を母国の代表チームが「最優勝候補ではない」根拠とするあたり、クリンスマン氏は何よりもまず「生粋の」「モチベーター」と言えるのではないか。
しかしクリンスマン氏が、一方で「戦術的に」疎いという理由で、決してドイツメディアから監督として無能の烙印を押されているわけではない。『シュトゥットガルター・ツァイトゥング』電子版は、クリンスマン氏が仕事を引き受けたら、完全に情熱を傾けるだろうと記している。
「53歳の男は、間違いなくサッカールーズに勇気ある、攻撃的なプレースタイルを処方するだろう」
『シュトゥットガルター・ツァイトゥング』電子版の記す「オーストラリア人」を「日本人」に、「サッカールーズ」を「サムライ・ブルー」に置き換えることはできるだろうか。
仮に通訳者を必要とする場合、クリンスマン氏が「偉大なモチベーター」としての本領を発揮できるかは、疑問が残る。
(文:本田千尋【ドイツ】)
【了】