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代表 6年前

イングランドで高まる52年ぶり戴冠への期待。躍進に導いた「ゆとり世代」を操る指揮官の手腕【ロシアW杯】

text by Kozo Matsuzawa / 松澤浩三 photo by Getty Images

「ゆとり世代」を知り尽くす指揮官の巧みなマネジメント

ヘンダーソン
準々決勝スウェーデン戦のあとも、スタンドで選手たちと家族が一緒に過ごす時間が設けられた【写真:Getty Images】

 となれば、スリーライオンズの躍進は運だけではないと考えていいのではないか? 成功したのは、偶然ではなくて必然だったのではないだろうか?

 解説者がよく語るのが、ガレス・サウスゲイトの“包容力”に溢れるアプローチだ。前回ワールドカップで準決勝に進出した際、すなわち28年前に代表のキャプテンを務めたテリー・ブッチャーは、サウスゲイトのリラックスしたスタイルをこう称える。

「例えば今回、ガレスはキャンプに家族を招き入れるようにした。素晴らしいことだ。家族と一緒にいる選手は気持ちを落ち着かせることができる。大会中に顔を合わせられることで、自宅にいるときのように落ち着けるんだ。とてもいいアイデアだった」

「彼は選手のこういった面をよく理解している。これもまた、ガレスが一生けん命に続けてきたイングランド代表のDNAを変える一環だ。彼は信念を持って『これはこうする、あれはこのようにやる』と続けてきた。FA(イングランドサッカー協会)も以前より、ガレスのように前衛的な考えを持ち、サポートしている」

 またサウスゲイトは、ワールドカップに出場するほかのどの国よりも早く大会に臨む23人の最終メンバーを発表している。「選手たちを苦しませる必要はない。早い段階で知ることで、選手はプレーに集中できる」というのがその理由だった。ほかにも、ロシアへ飛び立つ前に合宿を張ったイングランドの国立フットボールセンターであるセント・ジョージズ・パークで、選手全員がメディア対応する日を採用したりもした。

 後者については、マスコミとの距離を縮めてより応援しやすい環境を作るという目的とともに、合宿上で缶詰め状態になった選手たちの気分転換になるようにと配慮した結果でもあった。ちなみに先日、「今回のイングランドは国民と近い存在になれているのではないか」と指揮官は語っていたが、これはそういった監督の気配りの賜物と言えるかもしれない。

 あくまで選手ありき。U-21イングランド代表監督を務めるなど、これまで若い世代と仕事をしてきただけに、この年代の選手たちを理解しているのである。欧米の英語圏の国では「ミレニアル」という言葉が使われるが、日本でいえば「ゆとり世代」に似た意味合いを持つ。つまり一昔前の熱血・スパルタ時代とは異なった価値観を持ち、新しいライフスタイルを好む世代である。サウスゲイトはこれらの世代の特性を理解して、「よき兄貴分」として上手に掌握している。

 準決勝に先駆けて『BBC』のインタビューに応じた、カイル・ウォーカーは現在のチームのムードについて次のように述べている。

「以前は、代表として集まると“ナショナルチーム”という感じだったが、今はクラブチームにいるような連帯感がある。練習が終了したら自分の部屋に戻っていた。しかし現在は、ほかの選手の部屋を行き来したりして、この風通しの良さは監督のおかげだ」

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