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Jリーグ 6年前

イニエスタが考える『最善』のプレーとは? 神戸に浸透し始めた天才のビジョンと価値観

text by 青木務 photo by Getty Images

未来を操る横パス

 また、味方のプレーを称賛するようにイニエスタが拍手を送るシーンが何度かあった。後ろの選手が前にパスをつけようとするも、それをやめて横パスを選んだ時だ。湘南戦は無理に前に出しては相手に引っかかっていたが、その点が改善された。神戸は不用意なミスを最小限に抑えつつ、より確実なルートから攻撃を仕掛けていった。

 選択を間違えないことにかけて、イニエスタは天下一品だ。試合後、背番号8はこう話している。

「試合には色々なフェーズがあります。ボールを保持して組み立てていくフェーズや、より裏にパスを出していくフェーズなど。ウイングに速い選手がいるのでそういった(裏を突く)パスを狙ったりもしますし、常に最善のオプションを選んでいきたいと思っています」

 味方がプレーをやり直した時に拍手していたイニエスタだが、彼の言う「最善のオプション」がすでにチームにも浸透し始めているということではないだろうか。イニエスタは前を向いた時のアイディアも多彩だが、横パスやバックパスを軽視しない。前方向以外のパスが“逃げ”に見えないのは、その少し先に好機が訪れるからだ。

 例えば34分、郷家のヘッドがGKのファインセーブに阻まれるという惜しい場面があった。これを巻き戻すと、イニエスタがリズムを変えている。左サイドで受け、ティーラトンが裏へ抜け出す動きを確認しつつ横パスを選択。フリーでリターンをもらったが、前を向くのではなくDFラインに渡して作り直す。そして13秒後、再び左サイドにボールが戻ってくると、ティーラトンのクロスを郷家が頭で叩いた。

 自分のところから攻撃を加速させることもできたはずで、それどころかピッチにいる限り常に選択肢を前にとることすら可能に見える。だが、それは「最善」とは言えないのだろう。状況に応じて、また数手先の未来のために何をすべきかが重要であり、その意味ではイニエスタが絡まなかった決勝点も、各々が「最善」のプレーをしたことで生まれたものだった。

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