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日本代表 5年前

日本代表が露呈した欠点と手にした収穫。熟練記者が総括、サバイバルは第2段階へ【コパ・アメリカ】

コパ・アメリカ2019(南米選手権)に挑んでいた日本代表は、グループリーグを2分1敗という成績で終え、大会を後にすることになった。3試合で3得点7失点という成績が表す通り課題が多く見つかり、若い選手も南米の地で感じることは多かったはずだ。ただ、もちろん収穫もあった。それは、今後の日本代表を強化していくためにも、重要なものとなるかもしれない。(取材・文:元川悦子【ブラジル】)

text by 元川悦子 photo by Getty Images,Shinya Tanaka

鬼門・南米の地でまたも勝利を挙げられず

日本代表
日本代表はグループリーグ3試合を2分1敗で終え、コパ・アメリカから去ることになった【写真:田中伸弥】

 24日のエクアドル戦で勝ちきれずに1-1のドローに終わり、グループC・1敗2分でコパ・アメリカ2019(南米選手権)の挑戦に終止符を打った森保ジャパン。彼らは25日夜(日本時間26日昼)に現地を発ち、27日に夕方には帰国する。

 その移動直前に森保一監督がベロオリゾンテの宿泊先で報道陣の取材に応じ、大会を総括。「この3試合でできたこととできなかったことがあった。できたことはさらに自信を持って伸ばし、できなかったことは所属クラブに帰ってレベルアップしてほしいと伝えました。そして決定力を上げること、相手が圧力をかけてきた時に守備の部分でも耐えきれる力をつけていこうと言いました」と開口一番、選手たちに語りかけた内容を口にした。

 指揮官が言うように、U-23世代中心の若きジャパンが南米の地でチリ、ウルグアイ、エクアドルと真っ向勝負に挑み、壁にぶつかったことは非常に大きな経験だ。ウルグアイ戦やエクアドル戦では相手を凌駕する時間帯も作れたが、勝利という結果には届かなかった。

 日本は99年コパ・アメリカ、2013年コンフェデレーションズカップ、2014年ブラジルワールドカップ、そして今回と南米で4度の公式大会に参戦しているが、通算成績は3分9敗。それ以外の国際Aマッチを含める7分18敗という厳しい現実を余儀なくされている。今回こそ鬼門・南米で南米勢を下して新たな歴史を作りたかったが、それは先へと持ち越された。

 その要因は森保監督も認識しているように「決定力不足」と「守備の脆さ」だ。前者に関して言えば、今回の日本はウルグアイ戦での三好康児の2点とエクアドル戦の中島翔哉の1点の合計3ゴールを挙げたが、作った決定機ははるかに多かった。上田綺世1人を取ってもチリ戦とエクアドル戦を合計して5~6回の決定機がありながら決めきれなかった。

「これだけチャンスがあって仕事ができなかった悔しさというのは、この先続くキャリアの中で絶対に忘れられないものになる。こんなに外して無力感を感じることも日本にいたらたぶんない」と東京五輪世代ナンバーワンFWと評される男も屈辱感を吐露したが、それをどう今後に生かすかが重要になる。

重く受け止めるべき「3試合7失点」

冨安健洋
冨安を中心とした日本代表の守備陣は3試合で7失点という成績。この結果は重く受け止めるべきだ【写真:Getty Images】

 大会直前のレアル・マドリー移籍で世界から注目を集めた久保建英にしても、チリ戦の2人抜きから強烈シュートをサイドネットに当てた得点機を筆頭に、あと一歩でゴールに及ばなかった。本人は「シュートは入る日もあれば入らない日もある」と淡々とコメントしたが、その確率を引き上げる作業を続けるしか解決策は見出せない。サッカーはどれだけ内容がよくても、勝たなければ意味がない。そこは若い彼らに今一度、再認識してほしいところだ。

 守備陣も「3試合7失点」という結果を重く受け止めるべき。とりわけ、守備リーダーの冨安健洋は思うところがあっただろう。ウルグアイ戦後の彼は「ラインは高く保つことはできたけど、そこからボールにアタックできなかった。90分通してやりたいことをやらせてもらえなかった」と反省しきりだった。

 その悔しさを晴らすべくエクアドル戦で奮起したものの、先制点の後、ミスが続いてバタバタし、CKの流れから失点。テーマに掲げていたクリーンシートを達成できなかった。昨年から順調にA代表キャリアを歩んできた20歳のDFも自分に足りないものを痛感し、自分のあり方を見直す良いきっかけになったのではないか。

 3試合フル出場の杉岡大暉も「Jリーグだとああいうふんわりしたボールを上げられても失点にならないけど、世界だとクロスを上げさせるだけでピンチにつながってしまう」とコメントした。その言葉通り、寄せや球際、駆け引きといった細かい部分を突き詰めていかなければ、狡猾な南米勢は止められない。アレクシス・サンチェスやルイス・スアレス、エディンソン・カバーニといった世界トップFWと対峙した貴重な経験は本当に貴重。A代表のトップ選手もそうそう体験できるものではない。だからこそ、今後に生かさなければ意味がない。若い守備陣にはその重要性を肝に銘じてほしいところだ。

収穫だった「融合」と「競争意識の促進」

森保一監督【写真:田中伸弥】
「東京五輪世代の選手に『どのポジションにもオーバーエージの選手が入ってくる可能性がある』ということを実感してほしかった」と森保監督は話す【写真:田中伸弥】

 このように課題は残されたが、収穫も少なくなかった。特に大きかったのが、若手とベテランの「融合」と「競争意識の促進」である。

 森保監督はチリ戦で柴崎岳、中島、植田直通のオーバーエージ3人を先発起用。ウルグアイ戦とエクアドル戦では川島永嗣と岡崎慎司を含めた5人をスタメンに抜擢した。

 これにより幅広い年齢層のチームを1つにまとめ、機能させると同時に、U-23世代に「このままだと自分はポジションを勝ち取れない」という危機感を煽った。その成果はある程度出たと言っていい。

「東京五輪世代の選手に『どのポジションにもオーバーエージの選手が入ってくる可能性がある』ということを実感してほしかった。今まで私が言葉にし、なんとなく感じていたものをより現実的に受け止めてもらえたのかなと思っています」と指揮官は神妙な面持ちで言う。

 確かに、岡崎の活躍で上田や前田大然は「このままではダメだ」と感じただろうし、柴崎とボランチコンビを組んだ板倉滉や中山雄太も「岳君のレベルにならなければ東京五輪もA代表定着もない」と実感したはず。川島という偉大な守護神の一挙手一投足を目の当たりにした大迫敬介や小島享介らはここから目の色を変えるに違いない。そういう若手のモチベーションの高さを感じて、岡崎や川島も向上心を持つのではないか。そういう前向きなバトルが繰り広げられれば、日本代表は強くなる。今大会はそのいい契機になりそうだ。

ここから始まる熾烈なサバイバル

 柴崎や中島らA代表の核となるメンバーが五輪世代と一緒に戦ったことで、2022年カタールワールドカップアジア2次予選や東京五輪本番で柔軟なチーム編成ができそうだ。森保体制発足からの1年間はA代表と五輪世代の活動期間が重複することが多く、なかなか両者の融合が進まなかったが、これを機に今後はワールドカップ予選の方に久保建英や三好康児、板倉ら若い世代を引き上げることがしやすくなっただろう。

 逆に国際Aマッチ期間中の五輪代表活動にA代表のベテラン選手を呼ぶこともハードルは下がりそうだ。そうやって多彩なチーム編成をしておけば、対戦相手や状況によってメンバーや戦い方を変化させやすくなる。そこは森保監督が前々から理想としている点。その布石を打ったことは前向きに捉えてよさそうだ。

 森保監督が2つのカテゴリーの代表監督になって1年が経過し、日本代表のチーム作りはいよいよ新たな段階に突入する。9月から始まるカタールワールドカップ2次予選ではより若い世代の抜擢が進むだろう。

 ただ、既存のA代表メンバーも負ける気はない。30代に突入した長友佑都や香川真司も代表への強い思い入れを抱き続けているだけに、熾烈な生き残りが繰り広げられるだろう。そういう面々が刺激を与え合い、力を出し合えるような環境を作るのが指揮官の役目。コパ・アメリカという大舞台を経て、森保監督のマネージメントがどう変わっていくかも注目しつつ、この先の動向を見てみたい。

(取材・文:元川悦子【ブラジル】)

【了】

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