フットボールチャンネル

最高だったマンCの来日。マリノス戦はピッチ内外で大成功。その理由を様々な視点で解説する

今夏、プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティが横浜F・マリノスと対戦する「EUROJAPAN CUP」に参加するために来日した。試合結果は3-1でシティが勝利。強さを見せつけたが、決して一方的という内容でもなくマリノスの選手たちも善戦していた。ピッチ内外において見どころの多かった一戦やこの夏のプレシーズンマッチ全般について今回は解説する。(取材・文:内藤秀明)

text by 内藤秀明 photo by Getty Images

ピッチ外も最高の内容

0729mancity_getty
横浜F・マリノスと対戦したマンチェスター・シティ【写真:Getty Images】

 まず初めに筆者から多くの方々にお礼を申し上げたい。まずはマンチェスター・シティという世界最高峰のクラブを日本に招致し、試合前には最高の煽り動画を作るなど我々の気分を盛り上げ、つつがなく運営した運営会社の皆様。そして親善試合にも関わらず最高の強度の試合を見せてくれた両チームに。あるいはJリーグの時と変わらない雰囲気を作り出してくれた横浜F・マリノスのサポーターの皆様にも感謝の言葉を述べたい。

 そして最後にマンチェスター・シティのサポーターの皆様に、だ。チームがここ10年で強くなったこともあり、正直にいえば、日本のシティのファンはそこまで多くないと言われている。

 ただ一部の熱心なファンがシティファンやその他来場者に楽しんでもらうために有志で「マンチェスター・シティ応援歌集」を作成し、4000部印刷してゴール裏で配った。発音しにくい単語にはルビがふられ、一言解説も書かれており非常にわかりやすい内容になっていた。

 だからこそメインスタンドに座っていた筆者のところにも十分聞こえる声量のチャントになり、監督のペップ・グアルディオラもチャントが聞こえてきたことを認め、「エティハドスタジアムに居るかのような素晴らしい雰囲気だった」とコメントをしてくれたのだろう。

 マンチェスター・ユナイテッドを煽るチャントが聞こえてきた時は、ユナイテッドを応援している筆者としては、少し勘弁して欲しい気持ちにもなったが……。

 いずれにしても、J1のファンと比べると数が少ない海外サッカーファンは、より一致団結することで今後もチームが来日時に盛り上げていければ良いと思う。

 ただ反省があるとすれば、神戸への完全移籍が決定したGK飯倉大樹のセレモニー時にもチャントを歌ってしまったことだろうか。これについて一部マリノスファンの中にはお怒りの方もいるようでその怒りももっともなのだが、現場にいたファンの多くは、「気づかず歌いだしてしまった」ようで本人たちも反省している。実際、故意ではなかったからこそ、気づいたシティファンが止めに入った。

 いちお客さんであるファンがどこまで頑張るべきなのか、という部分は議論もあるだろう。ただスタジアムの進行も意識した上でチャント文化を楽しむことができれば、来場者の多くが幸せな状態になれるはずだ。

 いずれにしても大会をピッチ外から盛り上げてくれたことに対して個人的には感謝しかない。

ピッチ内も最高の内容

 素晴らしかったのはピッチ外の雰囲気だけではない。ピッチ内でも非常に強度の高い内容になっていた。両チーム共にハイラインでアグレッシブに守備を行い、それに対して、低い位置からボールを繋いで裏のスペースを狙う展開だったのだ。

 だからこそGKの出番が多い試合だったとも言える。両チームのGK、マリノスのパク・イルギュとシティのクラウディオ・ブラーボは、ポゼッション時には常にポジショニングを変えてボールを受けられる準備をし、相手の果敢なプレスを冷静にパスでかわし続けた。

 同時に守備の場面では、最終ラインの背後にある広大なスペースをカバーするために常に集中し、ピンチの際には全速力で飛び出してクリアすることも。観客としては手に汗を握るシーンが多く、見ごたえは抜群だった。

 そんなスピーディーな展開で輝いたのが、ケビン・デブライネだった。前日の公開練習でも調子の良さを見せつけたベルギー代表MFは、ピッチの様々なエリアに顔を出してボールを受けて運び、スペースに決定的なスルーパスを送り続けた。

 昨季は怪我の影響もありトップフォームではなかったが、調子を取り戻したことは明白だった。あまりの存在感に、隣に座っていたマリノスの番記者からは「またデブライネか!」と小声で悲鳴が上がるほど。

 絶好調でピッチを支配したゲームメイカーは、18分にボックス内でボールを受けると自らゴールをゲット。40分には自陣からスルーパスを通してラヒーム・スターリングが決めたゴールでアシストも記録した。

 この日2点目を決めたスターリングも、印象的だった選手のうちの一人だ。もともとはサイドで仕掛ける典型的なウインガーだったイングランド人だが、この日はコパの影響で欠場しているセルヒオ・アグエロやガブリエル・ジェズスに代わってワントップで先発出場。間で受ける動きや最終ラインの裏にスペースに抜け出す動きを何度も見せて、ペップの下でプレーの幅が増えたことを見せつけた。

 あるいはゴールのシーンの落ち着きも素晴らしかった。過去のスターリングであれば、最終局面で相手GKに当ててしまうことも多かったのだが、さすが一昨シーズン18ゴール、昨シーズンは17ゴールもリーグ戦で得点を決めているウインガーである。冷静なシュートだった。

 その他にも、アカデミー上がりの若手選手たちを含め多くのワールドクラスの選手たちを、生で見ることができ、レベルの高さを目の当たりにできた。本当に有難い機会だった。

最後に

 最後にシティだけでなくチェルシーの来日を踏まえた上で、所感を述べたい。

 個人的な意見だが、プレミアリーグの強豪がプレシーズンマッチのために日本に来るのは大いに有りな選択肢のように思える。

 理由としてはまずJリーグのレベルの高さだ。ヨーロッパの人気クラブは、ビジネスのために夏にアジアツアーすることが定番化しているが、正直に言えば強化の面でどの程度役にたっているのかは疑問である。

 多くのアジアのクラブは急成長しているとはいえ、欧州の最前線とはまだまだ戦力的に乖離があり、強度的には不十分に感じることも多い。アジアの地で欧州のチーム同士が戦うこともあるが、プレミアリーグ目線でいうとそれも十分ではないこともある。

 というのも他のリーグの開幕が、プレミアより遅いこともあり、対戦相手によってはコンディション差が非常に大きい。技術面はともかくフィジカル面への影響が特に大きく、それが守備のプレスの強度にもろに出てしまっている。

 それに比べるとJリーグのクラブであれば、アジア諸国と比べると戦力的にも強く、シーズン中のためコンディション良好で、ハードワークを欠かさないチームも多いため、守備の強度も十分だ。それはチェルシーが川崎フロンターレを相手に苦しみ敗戦を喫した事実からも明らかだ。

 マリノスも結果的には負けたが、大きなインパクトを残したことも確かだ。逆の目線でいうと、Jリーグとしてもコンディションは整ってはいないとはいえ、トップレベルのチームと対戦できることは良い経験になるはずだ。

 選手の視点で考えると、移動時間が長く蒸し暑い部分はマイナスだが、観光都市として東京や京都などの都市の人気が高まっており、オフの期間に訪れる選手も増えている。

 実際チェルシーのミチ・バチュアイは今夏プライベートでも来日して秋葉原に訪れ、ドラゴンボールの孫悟空のフィギュアと記念撮影している姿をSNSにアップしている。チームとしての来日合わせば、わざわざ2回も日本に来ているのだ。スポンサーイベントなどで多忙で、場合によっては難しいかもしれないが、観光を楽しみにしている選手も多いのではないだろうか。

 なおかつ近年、日系企業がプレミアリーグのチームのスポンサーになる事例も多く、チームのビジネス的にも中国ほどではないもののメリットは大きいように感じる。大会主催者目線で考えても、シティ戦のチケットは完売しており、大成功だと言える。
 
 そういう意味では、どの視点で見てもプレミアリーグのチームの「来日」という選択肢はメリットが大きいように思える。嬉しいことに「EUROJAPAN CUP」は来年大阪でも開催される。来るチームは未定だそうだが、個人的にはプレミアリーグのチームが来てくれないものかと願っている。

 その際はメディアの人間としても、プレミアパブというプレミアリーグのファンコミュニティを運営している人間としても、全力で盛り上げていきたいところだ。

(取材・文:内藤秀明)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top