フロンターレ、中村憲剛が名手たる所以。難局を覆すその力、稀代の司令塔が示す王者の強さ

明治安田生命J1リーグ第20節、川崎フロンターレ対大分トリニータが27日に行われ、ホームの川崎Fが3-1と快勝した。洗練された大分のビルドアップに序盤苦しめられた川崎Fだったが、決定的な仕事で2点に絡みチームを勝利に導いたのはMF中村憲剛。豊富な経験と卓越した技術を持つ名手が、試合に与える影響とは。(取材・文:下河原基弘)

2019年07月31日(Wed)10時20分配信

シリーズ:週刊Jリーグ通信
text by 下河原基弘 photo Getty Images
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相手のミスを突いた中村憲剛の力

中村憲剛
川崎フロンターレのMF中村憲剛【写真:Getty Images】

 その瞬間を見逃さなかった。1-1の後半16分、相手のパスミスに反応したMF中村憲剛は中盤でボールを奪いドリブル。そして、抜群の動き出しを見せていたFW小林悠に素早く、かつ優しいスルーパスを出した。受けたエースは冷静に切り返してシュートコースを作り出すと、左足でゴール左隅に突き刺した。

 この1点で大分トリニータは一気にスローダウン。まさに勝負を分けたプレーとなった。2点目を取られて精神的な部分で大きかったのでは、と質問された大分DF鈴木義宜は「まあ正直それはありますけど…。そこから盛り返す力だったり、パワーやアクションっていうのは増やしていかないといけない」と肩を落とした。

 一見、相手のミスに付け込んだだけに見える得点。ただ、それは意図しつづけた形であった。「ずっと、ずっと狙っていたので。ミスは絶対毎試合起きているから、大分自体がね。後ろでミスが起きているから」と話したのはアシストを決めた中村。

「やっぱあれ大変だと思うし、負荷もかかると思うし、プレッシャーも結構かかっていると思うので、そういう意味ではひっかけて取れたのは狙い通り」と、相手の状況や気持ちまで見透かしてのプレーだったことを明かした。試合の流れを読み切って、ここぞとばかりに最大の効果が発揮されるアクションにつなげる力は、さすがとしか言いようがなかった。

「言わなくても分かる選手の1番は憲剛さん」(小林悠)

川崎フロンターレ
FW小林悠(右)は「言わなくても分かる選手の1番は憲剛さんなんで」と話す【写真:Getty Images】

 この試合、立ち上がりから川崎フロンターレが、猛烈に最前線からプレッシャーをかけるも、予想以上の大分の球回しにかわされ、バランスを崩してピンチを招く場面が散見された。前半30分を前に入れられた飲水タイム、選手たちは一度集まって意見交換を行った。

「僕らも意地になっていたところもありましたし、それを見事にひっくり返されていた。だけど給水タイムでやめっかってなって、やめますとなって。やめるというか、行くタイミングを変えようとなった」と背番号14。

 事前スカウティングがはまらなくても柔軟に戦術を変えられる強さが、このチームにはある。両サイドが無理に突っ込むことなく、ブロックを作る時は作って守備をすることで、流れを引き寄せて前半を終えた。

 そして後半6分、中村を絡めたフロンターレらしい細かいパス回しからMF齋藤学が決めて先制。3分後に一瞬のスキを突かれて同点に追いつかれたが、決定的な仕事をして勝利を引き寄せたのは、絶妙のパスカットから決勝点をアシストした稀代の司令塔だった。

 実は2点目の形、中村はもちろん、チーム全体として狙っていたものだった。「いい守備から攻撃するというところは相手のウィークポイント(をつける)。そこをきちんとみんなが理解して、みんなが取り組んで、憲剛さんがしっかり取り切って素晴らしいパス出してというところがありました」とDF谷口彰悟。

「そういう的確な判断、素早い判断ができる。それができる技術を持っている選手は貴重ですね」と大先輩を絶賛した。画竜点睛。チーム全体でデザインしたプレー・戦略に、中村という名手が加わるからこそ、ゴールへの道筋はよりくっきり浮かびあがるのだろう。

 小林も「やっぱりいいパスを出してくれるというか、分かりあっているというか。お互いにどこで欲しいか、どのタイミングで欲しいか、言わなくても分かる選手の1番は憲剛さんなんで。そういう選手がいてくれると僕も生きますし、チームとしてもいい攻撃もできる」と、その存在の大きさに言及した。

背番号14の偉大さがわかるゲームに

 相手側から見ると、また違う中村の凄みが分かる。大分・片野坂知宏監督は「ゲームを読めるし、周りを動かすことができるし、それに経験もありますし、非常に嫌な選手だと思いますね」と率直に感想を口にした。

 守備で奮闘も及ばなかった鈴木は「自分たちDFラインとMFの間にずっと立って、ギャップをずっと狙っていた。嫌な位置にずっと立っているなという印象がありました」と試合を通しての印象を語った。

 直接プレーに関与する時はもちろん、そうでない時も相手にプレッシャーを与え続けるのが名手の名手たる所以なのだろう。改めて、中村憲剛という選手の偉大さが分かるゲームとなった。

 これでチームはリーグ戦15戦負けなし。前節に背番号14が復帰してからFC東京、大分と難敵を続けて撃破し、2連勝と勢いは加速してきている。4試合連続ドローと勝ちきれなかったホームゲームだったが、5月3日のベガルタ仙台戦以来の白星がついて勢いは増すばかりだ。

「ホームでずっと笑顔なしだったので、今日の勝利は非常に大きかったと思うし、また等々力で勝つ空気ができてきたと思うので、よかったと思います」と2得点に絡んだ司令塔。

 31日のサンフレッチェ広島戦をにらみ、中村、小林を途中交代させるなど鬼木達監督の手腕もさえる。途中出場のFWレアンドロ・ダミアンも驚異的な胸トラップから3点目をアシストし、ベンチの層の厚さも改めて証明された。王者の前進を止めるチームはあるのだろうか?

(取材・文:下河原基弘)

【了】

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