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Jリーグ 5年前

神戸に加入、元バルサDFフェルマーレンとは何者か? ベルギー代表の重鎮が持つ世界クラスの能力

ヴィッセル神戸に“元バルサ戦士”が続々と集結している。この夏は4人目となるベテランDFトーマス・フェルマーレンが加わった。ワールドカップ出場歴も持つ現役ベルギー代表センターバックはどんなキャリアを歩み、いかなる能力を備え、これから神戸に何をもたらせるのだろうか。(文:舩木渉)

シリーズ:○○とは何者か? text by 舩木渉 photo by Getty Images

負傷に祟られたキャリア

トーマス・フェルマーレン
ヴィッセル神戸加入が決まったトーマス・フェルマーレン【写真:Getty Images】

 また1人、ヴィッセル神戸に“バルサ歴”を持つ選手が加わった。ベルギー代表として70試合の出場を誇るセンターバック、トーマス・フェルマーレンだ。

 これで神戸に所属するバルセロナ在籍歴を持つ選手は、アンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャ、セルジ・サンペールに次いで4人目となる。まもなく34歳を迎えるとはいえ、2度のワールドカップに出場しベルギー代表の主力級として活躍する選手は大きな戦力アップになるだろう。

 とはいえフェルマーレン=バルサと連想するのは、なかなか難しい。レンタル移籍を挟んでいるとはいえ在籍4シーズンで背番号が「23」→「25」→「24」と2度変わっていることからも分かる通り、チームの中心にはいなかった。近年は度重なる負傷離脱によって出場機会が限定的で、バルサに在籍した4シーズンでリーグ戦の出場がわずかに34試合しかないことも大きな要因だ。

 ベルギー出身ながらオランダでプロデビューを飾った彼は、RKCワールワイクへのレンタル移籍を経て強豪アヤックスに欠かせない選手となり、アーセナル、バルサ、ローマを挟んで再びバルサと歩んできたキャリアの中で、常に負傷と戦ってきた。

 アーセナル時代の2010/11シーズンには代表戦でアキレス腱を負傷して約8ヶ月にわたる長期離脱を経験し、シーズンのほとんどを棒に振った。バルサ移籍1年目だった2014/15シーズンは負傷を抱えて始動し、その後も故障を繰り返して公式戦の出場はリーグ戦の1試合、わずか63分のみに終わった。

 昨季も細かい負傷で4度にわたって離脱を繰り返し、リーグ戦の出場は9試合のみ。キャリアを通じて見てもフル出場30試合以上にあたる2700分のリーグ戦出場を果たしたのはアヤックスでの最後の年だった2008/09シーズンと、アーセナル移籍初年度の2009/2010シーズンだけ。そうなるとやはり「フェルマーレン=負傷」というイメージはつきまとってしまう。特に筋肉系の故障が多いのも厄介だ。

 とはいえ以前から高く評価されてきたセンターバックとしての能力の高さに疑いはない。負傷を繰り返したことによって、かつてのようなスピードは失ってしまったように思えるが、経験を重ねたことで向上した予測の早さや精度でスピード不足を補うことができる。

下り坂でも…バルサが求めた組み立てる力

 また、空中戦をはじめとした対人能力の高さもいまだにトップレベルの水準にあるだろう。センターバックとしては身長183cmと小柄ながらヘディングの強さは抜群。アーセナル時代は同クラブに在籍したDFとしては当時の歴代最多記録となる通算13得点を奪った。移籍初年度だけで7得点を決めるなど、攻撃面でも貢献度は高かった。

 そして何と言ってもフェルマーレンの魅力は、ビルドアップ能力の高さだ。左利きという希少性に加え、プレッシャーを苦にせず長短のパスを蹴り分けることができる。相手の守備組織の隙間にグサリと刺すような鋭い縦パスは、神戸でもイニエスタやビジャ、サンペールとの共演で大きな武器になる。

 フェルマーレンがバルサに入団したのは2014/15シーズンで、当時は28歳だった。普通であれば全盛期と言える年齢だが、彼に限って言えば度重なる負傷によって選手としては下り坂に差し掛かっていたと言って差し支えないだろう。

 それでもバルサがフェルマーレンを欲した理由は、やはりセンターバックとしては図抜けたビルドアップ能力にあったはず。直前のシーズンも負傷離脱が多くアーセナルでベンチを温めていたにもかかわらず、バルサは契約が残り1年の控え候補に1900万ユーロ(約23億円)も投じたのである。

 神戸の一員になったセンターバックは、バルサから獲得オファーを受けた当時のことを英誌『FourFourTwo』の2015年12月号に掲載されたインタビューで次のように振り返っている。

「正直言ってびっくりしたよ。若手の頃、アヤックスのトップチームでプレーするチャンスをもらって驚いたり、数年後にアーセナルからお呼びがかかったり、そういった時と同じような感じだった。バルサほどのビッグクラブでプレーすることは、すべてのフットボーラーの夢だし、僕は本当にわくわくした。

そしてアーセナルにおける僕の状況も交渉の加速を後押しした。僕の契約は残り1年で、クラブが移籍金を受け取るには最後のチャンスでもあったからね。しかもあまりプレーできていなかったから、アーセナルとしても僕を手放すことに消極的というわけではなかった」

「バルサのDFは簡単じゃない」

トーマス・フェルマーレン
バルサ時代のトーマス・フェルマーレン【写真:Getty Images】

 結局、移籍直後のシーズンは負傷によってほとんどプレーできなかったが、フェルマーレンがバルサで本領を発揮した期間もわずかながらある。それはローマへのレンタル移籍から復帰した2017/18シーズンの中盤戦のことだ。

 サミュエル・ウンティティやハビエル・マスチェラーノが負傷離脱したことによってレギュラー獲得のチャンスを得ると、アーセナル時代の全盛期を思い起こさせるパフォーマンスでシーズン開幕から続いていた連続無敗記録の継続に大きく貢献した。

 特にクリスマス直前の2017年12月23日に行われたレアル・マドリーとの「エル・クラシコ」ではジェラール・ピケとのコンビで、3-0の快勝を支えた。シーズンを通して公式戦20試合に出場して復活を印象づけた。

 そのシーズン途中に英紙『ガーディアン』のインタビューに応じたフェルマーレンは、バルサでDFとしてプレーすることの難しさを次のように説いていた。

「人々はバルサのDFたちについて、少しばかり間違った見方をしていると思う。そういう人たちは『あぁ、簡単な仕事じゃないか。バルサは攻撃、攻撃、攻撃、それだけだろ』と考えるが、要求は非常に高い。

相手陣内でプレーするということは、それだけで何かが起こるわけではない。僕たちは常にプレッシャーに晒されている。相手の方に行こうとするなら、僕たちは押し上げろ、押し上げろ、押し上げろというプレッシャーを毎回受けることにもなる。つまり自分の背中には50mのスペースがあり、それは必ずしも簡単とは言えない。

後ろの方からプレーすることもない。前に蹴り出すのがより簡単な場合もあるし、それで終わりな場合もあるけれど、僕たちのやり方ではない。それで(背中に50mのスペースがあった方が)もうちょっと楽しくプレーできるね」

フェルマーレンが移籍先を選ぶ基準

 フェルマーレンはバルサで山あり谷ありの4シーズンを過ごした末に、その哲学を携えて日本にやってきた。今季の神戸は21節終了時点でJ1で2番目に多い38失点を記録している。“バルサ化”を標榜するチームにおいて、彼の培ってきた技術や経験が守備力向上に生かされるかもしれない。攻撃的に振る舞いながら、どのように確実にゴールを守るかという術を、このベルギー代表センターバックは知り尽くしている。

 そして英紙『ガーディアン』のインタビューで、フェルマーレンは「クラブが関心を寄せてくる時、いつも彼らがどのように戦っているのかを見る。僕にとってただロングボールを使ってプレーするチームに入るのは、いいことではないだろう。哲学を見て、自分にマッチするか確認するんだよ」とも語っていた。

 つまりこの考えが変わっていなければ、彼自身が神戸の「哲学」に共感し、プレースタイルがマッチすると確認したうえで契約しているはずだ。クラブが将来を築く上で掲げるビジョンも知らないはずがない。

 常に負傷のリスクはつきまとうものの、ピッチに立てば未だにワールドクラス。欧州では揶揄の対象だった“クリスタル・プレーヤー”の称号も、Jリーグに来れば輝かしいトップレベルの証である。フェルマーレンは神戸の“バルサ化”を加速させるだけでなく、日本のセンターバックや守備文化のレベルを引き上げることのできる貴重な人材だ。

 しかし、まずは健康な状態を持続させ、そのうえで神戸の守備力を向上させることが33歳のベテランに与えられた最重要ミッションとなる。まもなくやってくるであろうJリーグデビューで、どんなプレーを見せてくれるか楽しみに待ちたい。

(文:舩木渉)

【了】

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