大分トリニータは、なぜ「選手がより上手くみえる」のか? 片野坂監督に聞くその核心【インタビュー前編】

わずか3シーズン前、J3にいたチームの大躍進をいったい誰が予想できただろうか。片野坂知宏監督率いる大分トリニータはまさに破竹の勢いでJ1へ駆け上がった。 V字回復の立役者、片野坂知宏監督はいかにしてJ1で通用する戦い方を浸透させたのか。 監督の哲学と異質なサッカースタイルの核心に迫るインタビューを行った8/6発売の『フットボール批評 isuue25』から、一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(取材・文:西部謙司)

2019年08月24日(Sat)10時00分配信

text by 西部謙司 photo Editorial Staff
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トレードマークは「疑似カウンター」

片野坂知宏
大分トリニータを率いる片野坂知宏監督【写真:編集部】

 2016年、J3に降格した大分トリニータの監督に就任。1年でJ2へ昇格すると、J2の2年目に2位で自動昇格を決めた。そして2019年、J1の折り返し点である第17節時点での順位は何と4位。まさにトントン拍子ともいえる躍進ぶりである。

 片野坂知宏監督の率いるチーム は、Jリーグでもかなり異質のスタイルだ。3-4-2-1システムの可変型、いわゆる「ミシャ式」なのだが、大分ならではの変化も加えられている。

 GK高木駿がビルドアップに組み込まれていて、ほとんどDFと並んでプレーしていることさえある。こうしたGKの攻撃参加は、かつてのサンフレッチェ広島や浦和 レッズ、現在の横浜 F ・マリノスにも見られるものの、大分ほど大胆ではない。

 後方のパスワークから一転してロングパスを前線へ送る「疑似カウンター」は、大分のトレードマークにもなっている。本来、ハイプレスに対してロングパスでひっくり返す攻撃は、自陣のポゼッションとセットと言っていい。自陣でのボールポゼッションの目的は半分がカウンターのためなのだ。

 ただ、つなぐことはできても蹴ることができないチームも現実にはあるわけで、その点で大分は完成度が高い仕上がりになっている。

 相手のプレッシャーからずれたポジションをとり、GKを加えることでの数的優位を利用して自陣最深部からでもパスをつなぐ。さらに相手が前がかりになったら一気に裏を狙い、奪えないと諦めて引いたときは人数をかけて攻め込む。

 どうなっても有利な状況をひねり出す仕組みができている大分のサッカーは「選手がより上手くみえる」サッカーだ。J3からJ2、J1とステップアップするたびに補強もされてきたわけだが、手持ちの戦力を最大限に生かしてきた監督の手腕は驚異的といっていい。

「ミシャさん以外の監督も参考に」

――このプレースタイルを始めたのはなぜですか?

片野坂 サンフレッチェ広島でミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)の下でコーチを務めていました。ミシャさんのアイデアにはサッカーの楽しさや駆け引きがあり、相手のプレスをいかにはがしていくかにトライされていた。それが面白かったので参考にさせていただきました。

 J3では4-4-2から始めています。ガンバ大阪で長谷川健太監督の下でコーチをやらせていただいたときの戦術ですね。当時、大分は4バックでやっていたので、選手の特徴もみて4-4-2を継続しました。3-4-2-1はJ2に 上がってからです。

――いわゆるミシャ式ですね。

片野坂 3-4-2-1といえば日本ではミシャさんですよね。J3からJ2に上がった2017年に、守備面でより固くなるだろう3バックを採用しました。攻撃では広島のときのアイデアが面白かったのでそれをトライした。

 守備では長谷川健太さんの4-4-2でのアプローチの仕方を参考にしましたし、森保(一)さんのプレッシングのやり方もそうです。状況によって、こういう場合にはこういう縦ズレにしたほうがいいとか、そういう面ではミシャさん以外の監督も参考にさせていただいています。

(取材・文:西部謙司)

▽片野坂知宏(かたのさか・ともひろ)
1971年4月18日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は広島、柏、大分などでプレー。指導者のキャリアは07年G大阪のコーチから始まり、10年広島のコーチ、14年からG大阪のヘッドコーチを経て、16年に当時J3 だった大分の監督に就任した。1年でJ2復帰、17年にはJ2で9位、昨季J1昇格を達成した。

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