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Jリーグ 5年前

井手口陽介に漂う「ガンバ大阪を勝たせられる存在」への期待感。無念の思いが成長の糧に【欧州復帰組の現実(3)】

井手口陽介は今夏、ガンバ大阪への復帰を選択した。若くして日本代表の中心選手となり、大きな期待を持って欧州に挑戦したが、実績を残すことはできなかった。それでもまだ23歳。人間的な成長を遂げ、ガンバ大阪のけん引役として期待は膨らむ。(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子 photo by Getty Images

全くと言っていいほど実績を残せなかった欧州挑戦

井手口陽介
2018年1月に欧州へと活躍の場を移した井手口。しかし、待っていたのは厳しい現実だった【写真:Getty Images】

 9月2日からキリンチャレンジカップ2連戦(5日=パラグアイ戦、10日=ミャンマー戦)に挑む日本代表が始動する。今回、ボランチに名を連ねたのは、2018年ロシアワールドカップ組の柴崎岳と遠藤航、成長著しい橋本拳人と板倉滉の4枚。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代に「絶対的存在」と位置付けられ、再起を賭けて今夏Jリーグに復帰したばかりの井手口陽介は、残念ながら選から漏れた。

 それもそのはず。「デュエルの申し子」とも称された23歳のボランチは古巣・ガンバ大阪に戻ってからまだ公式戦5試合を消化したばかり。8月10日のサンフレッチェ広島戦の後半35分から新たな一歩を踏み出し、8月14日の天皇杯3回戦・法政大学戦で初のスタメン出場を飾った。

 だが、この時は右インサイドハーフ起用に本人が戸惑いを覚えたこともあり、運動量や出足の鋭さ、ボール奪取力といった彼の武器が全くと言っていいほど出ないまま前半で交代を強いられた。

 宮本恒靖監督も「井手口は公式戦から長い間遠ざかっていた。自分でトレーニングはしていたが、実戦感覚がまだ戻っていない。もう少し時間がかかる」と表情を曇らせた。

 ハリル監督から「素晴らしい選手」と絶賛されながら、2018年1月に赴いた欧州で全くと言っていいほど実績を残せなかったことが、現状につながっているのだろう。この1年半、井手口はスペイン2部のクルトゥラル・レオネサとドイツ2部のグロイター・フュルトでプレーしたが、前者はリーグ5試合、後者は7試合出場にとどまっている。

 スペイン時代は言葉や文化、習慣の問題から異国になじめず、ドイツに赴いてからは右ひざ後十字じん帯断裂と半月板損傷という2度の重傷に見舞わるアクシデントに直面。「海外で成長したい」という思いが叶わないまま、無念の帰国を余儀なくされたのだ。

 海外移籍にはリスクがつきもので、過去にも水野晃樹や永井謙佑といった面々が若くしてチャレンジしながら壁にぶつかっている。井手口の場合も大胆な挑戦が裏目に出る形になった。

流れを一変させた遠藤保仁とのコンビ

 とはいえ、彼はまだ23歳になったばかり。一度や二度の挫折でキャリアが立ち行かなくなる年齢ではない。今季で欧州10年目を迎える日本代表守護神・川島永嗣も「チャレンジしてうまく行かなかったら、Jリーグに戻って再起を図ればいい」と力強く言っていたが、井手口が完全復活できるチャンスはまだ残されているのだ。

 実際、法政大学戦以降は復調傾向が見られつつある。9月18日のジュビロ磐田戦はラスト9分間のプレーにとどまったものの、23日の鹿島アントラーズ戦はフル出場。宮本監督も「井手口の存在感が後半増していたところも今日、ポジティブに捉えている点」と名指しで高評価を与えた。

 ここまでは井手口のことを懸念するような発言が目立ったが、ようやく戦力として使えるメドが立ったのだろう。

 迎えた31日の横浜F・マリノス戦。3-5-2のアンカーに入った彼は序盤からマルコス・ジュニオールに激しく食らいつき、球際と寄せの激しさを前面に押し出す。スペースを埋めたり、カバーリングに入ったりと守備面では大いに奮闘。再三のピンチからチームを救う献身性を示した。

 それでも「3バックの脇が空くと相手が分かっていて、そこにサイドチェンジを振って振ってという形で来ていた。あれは僕ら中盤からしたら難しいかな」と本人も語るように、サイドアタックの流れから前半39分にティーラトンに先制点を奪われてしまう。後半開始直後にもマルコス・ジュニオールに追加点を献上。ガンバは早くも崖っぷちに追い込まれた。

 そんな流れを一変させたのが、39歳のベテラン・遠藤保仁だった。遠藤とパトリックの2枚替えを機にガンバは4-4-2へと布陣変更。井手口も遠藤とダブルボランチを組み、より攻守両面で躍動感あるプレーを前面に押し出すようになった。

「個人としてもやりやすかったし、チームとしても4-4-2になってからの方が前に行けてた。迷わず守備にも行けて攻守の切り替えも速かった」と劇的なリズムの変化を井手口自身も感じながら戦った。その結果、小野瀬康介が1点を返すことに成功。彼らの反撃ムードは最高潮に達した。

 しかし後半32分のパトリックのゴールがオフサイドと判定され、追いつくことができず、最終的には遠藤渓太にダメ押し点を奪われ、1-3で苦杯を喫することになった。

「ヤットさんが入って、はまっていた時間帯にもう1点取って同点に追いつければ、結果は違っていた。もう1点取れるような最後の質を高めていかないといけない。1週間かけてマリノス対策をすごい準備してきただけに残念ですね」と井手口も自身加入後初のリーグ戦黒星を悔やんだ。

ガンバ大阪を勝たせられる存在に

井手口陽介
井手口はガンバを勝たせられる存在になるべく、ここから再び前進していく(写真は2017年のもの)【写真:Getty Images】

 ただ、やはり公式戦5試合を終えて、自身のパフォーマンスが上昇傾向にあるのは確か。本人も少なからず自信を深めたはずだ。

「僕個人としては、ボールを取ってからのショートカウンターのパス出しの質だったり、相手の嫌なところをもっと突けるような存在になりたい。アンカーでも攻守両面で嫌な仕事ができるようになれると思います。自分自身、まだまだ粗削りな部分はあるから、細かいところを直して行ければいいかなと思います」と改善点も明確になっている。

 そうやって自分の現在地をしっかりと客観視できているのもゲームにコンスタントに出場できているから。スペインとドイツで過ごしたこの1年半はサッカー選手として当たり前の試合出場さえも叶わなかった。ピッチに立てることの喜びを噛みしめながら、井手口はガンバを勝たせられる存在になるべく、前進していく覚悟を持っている。

「ツネさんが使ってくれているから、その期待に応えたい気持ちは絶対にある。誰よりも最後まで走り抜きたいです。今日は負けちゃいましたけど、みんなが最後まで走り切れれば絶対に勝てる。今は点を取られるだけで『どんより感』というか、もう負けたような雰囲気が出ちゃってるんで、そういう時にプレーで鼓舞できる存在になれればいい。僕はこのチームの若手はいろんな経験がある方なんで、それを還元できればいいと思います」

 人の目を見てしっかり意見を口にする井手口の立ち振る舞いは、欧州挑戦に赴く前とは明らかに違っていた。その変貌も苦悩の日々がもたらしたものだろう。人間的に一回り成長した23歳のダイナモがより一層復調し、ガンバの新たなけん引役になってくれれば、低迷脱出も可能かもしれない。本人もその自覚を深めているだけに、JリーグYBCルヴァンカップを含めてこの先の戦いが大いに気になる。

(取材・文:元川悦子)

【了】

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