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プレミアリーグ、夏の移籍市場はなぜ早く終わるのか。その経緯と理由を解説、機能不全の原因は?

今年もプレミアリーグの各クラブは、移籍マーケットで大きく動いた。潤沢な予算を投資して、有力な選手を次々と獲得。予算がないと言われていたアーセナルも、一部は分割だが、180億円もの移籍金を支払い、昇格組のアストン・ビラでさえ170億円もの金額を市場に投じた。この資金力を鑑みると、イングランドは他リーグに比べれば圧倒的に恵まれているが、他のリーグに比べて不利な面もある。それが移籍市場が他のリーグより早く閉まってしまうルールだ。結果として補強できないにもかかわらず、主力が退団するリスクを8月後半の一定期間抱えてしまうなど、いくつかのデメリットが可視化されつつある。では何故、このようなルールがプレミアリーグには適用されているのだろうか。(文:プレミアパブ編集部)

text by プレミアパブ編集部 photo by Getty Images

移籍期間を短縮した経緯と理由

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プレミアリーグの夏の移籍市場はなぜ早く閉まるのか?【写真:Getty Images】

 基本的に、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスなどの欧州1部リーグは、今夏9月2日まで移籍を認められていた。しかしプレミアの移籍最終日は8月7日。他国より約1か月近く短い。もともと 2017/18シーズンまではイングランドも他国同様に8月末~9月頭を最終日としていたのだが、かねてより開幕後に選手の移動が起こることに対して、リーグもクラブも問題視していた背景があった。

 開幕後に選手が移動するデメリットとしては、主力が引き抜かれる危険性があるため、チーム作りが進まない点が大きい。

 例えば2017年の夏には、リバプールのフィリッペ・コウチーニョ、サウサンプトンのフィルジル・ファン・ダイク、アーセナルのアレクシス・サンチェスなどの主力級の選手たちが、リーグ開幕後3節たっても去就が確定せず、監督たちは選手起用に悩まされた。これら3選手は全員残留したが、アーセナルのアレックス・オックスレイド=チェンバレンが、3節でリバプールと対戦した3日後に対戦相手へ移籍するという異例の事態も起こっている。

 当時ユナイテッドを指揮したジョゼ・モウリーニョは「移籍期間はなるべく早く終わるべきだ」と主張。リバプールのユルゲン・クロップも「シーズン開幕前に移籍期間が終わる方が理にかなっている」というコメントを残している。その他にも多くの指揮官が、スカッドを早期に確定させて、新シーズンのチーム作りに向けた時間確保を望んだのだ。

 これらの意見が反映されたのが上記のプレミア幹部会合の結果である。当時のプレミアリーグ最高責任者リチャード・スキューダモアは「最も重要なことは、各クラブがリーグの中である種の“誠実さ”を持つことだ。シーズン開幕時に同じクラブにいた仲間が次週には敵になっている構図は、様々な観点から見ても健全ではない」と発言し、シーズン開幕前に補強期間が終わる新規定に賛成した。

 結果2017年にリーグは改革に乗り出す。プレミア20クラブの幹部たちがロンドンで会合を行うと、補強最終日をシーズンの開幕前に設定する移籍期間の短縮案について議論が行われた。

 すると最終的に投票の結果、20チーム中14チームが新案に賛成し、ルール変更に必要な3分の2以上の賛成を獲得。18/19シーズンからリーグ戦開幕前に移籍市場が閉幕することが決定した。

 ちなみに英メディア『The Guardian』によれば、当時に反対票を投じたのはユナイテッド、シティ、ワトフォード、スウォンジー、クリスタル・パレスの5チームと言われている。唯一、バーンリーは棄権したそうだ。

新規定は失敗? 誤算だった他国の反応

 補強期間の短縮案が施行されてから、今夏で2年が経った。結論から言うと、成功したとは言い難い。

 一番の原因は、近隣諸国が移籍期間を合わせなかったことだ。

 英メディア『Daily Mail』によると、プレミアの新期限が発表された2017年にはブンデスリーガやセリエAは好意的な反応を示した。特にブンデスリーガでは、同年のリーグ開幕後にウスマンヌ・デンベレ(当時はドルトムント)がバルセロナへ電撃移籍した影響で、シーズン開幕前の移籍市場閉幕は活発に議論された。

 しかし結果的には両リーグは移籍期間を変えることはなく、リーガ・エスパニョーラなどの他国も期限を変更する気配を見せなかった。これによりプレミアのクラブたちは他のクラブより2週間以上早く補強ができない状況に陥った上に、8月後半も補強可能な近隣諸国のクラブから主力を引き抜かれる危機に晒された。

 例えば、今夏で言えばクリスティアン・エリクセンが他国の移籍最終日まで退団の可能性を残し、トッテナムの多くの関係者がフラストレーションを溜めた。事実、マウリシオ・ポチェッティーノ監督は「プレミアリーグにとって大きな間違いだ。他国に20日ものアドバンテージを与えて、イングランドを不利な状況に追いこんでいる。もし他国が同じルールを採用する気がないのなら、プレミアリーグが他国に合わせるべきだ」と現在のルールを激しく批判している。

 スカッドを早期に固めてチーム作りの時間を確保するために採用された移籍期限の前倒しは、他国の賛同を得られなかったことで根本的な問題解決を達成できなかった。

現在は再検討中? プレミアリーグが取るべき道とは

 監督陣から不評な移籍期限の前倒しは、もしかしたら今夏で終了するかもしれない。

 英メディア『THE TIMES』によると9月に行われるプレミア幹部による会合で、補強期間を延長して欧州諸国と同じ期限を設けるかどうかを協議するようだ。

 現時点では、2017年に短縮案を反対していたマンチェスター勢、ワトフォード、クリスタル・パレスに加えてマージ―サイドの2チームも移籍期限の延長に賛同することが濃厚だ。イングランドの大手メディアは移籍期限の延長に賛成するクラブは過半数を超えると予想しており、9月または11月の会合を経て、来夏以降の移籍期間は延長される可能性がある。
 
 いずれにしても、現時点で機能不全に陥っているのは間違いない。一度、旧ルールに戻すという対応が妥当だろう。

 一方で、根底にある「リーグが始まるまでに市場を閉じるべき」という思想そのものは間違いではない。次回、移籍期間短縮に乗り出す時は、きちんと他リーグへの根回しも行って欲しいところである。

(文:プレミアパブ編集部)

【了】

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